2021-01-19

国内で拡大するフェムテック市場。気持ちをシェアできる環境づくりが成長をリードする

“女性向け”だけじゃないメンテックも登場
新たなサービスやITによって、女性の健康や生活をサポートする「フェムテック(Female×Technology)」。2000年頃に女性向けヘルスケアサービスが誕生して以降、サブスクサービスやプロダクト、デバイス等へと拡大しています。 国内でも、近年の社会環境や意識の変化に伴って、女性のライフスタイルに関わる課題を積極的に解決する動きが活発化しており、フェムテックに対する注目度やニーズは上昇を続けてきました。国内のマーケットマップを見ても、2020年4月から12月の間にサービスの数が約2倍に増加(※)するなど、順調な成長を遂げています。
フェムテックに関わるビジネスで注目すべきポイントや、ユーザーとのコミュニケーションのコツなどについて、フェムテック関連のプロダクトの販売やイベント開催などを手掛け、市場の活性化を目指す fermataの中村さんにお話を伺います。

※ 2020年12月 fermata調べによる


女性の健康や生活への意識が向上し、ニーズが拡大

——2025年には北米だけで5兆円に上る(※)と予想されるフェムテック市場。国内でもユーザーが増えていますが、どのようなサービスやプロダクトがあるのでしょうか。
※ 2018年 Frost & Sullivan調べによる

月経、妊活、更年期に関連するもの、女性のヘルスケア全般をサポートするもの、セクシャルウェルネスに関連するものなど、非常に様々です。

シード以上の投資を受けており、EXITしていないフェムテック企業をまとめた、国内のマーケットマップ

※ 2020年12月 fermata調べによる


傾向としては、現状はアプリ、サービス、メディア、アイテムなどを提供する企業が多く、新たなテクノロジーを投じたデバイスに関する企業は、北米などと比べてまだ少ない状況です。水面下で開発を進めている企業はありますから、数年内には目立ってくると思います。

——前回(2020年4月)のマーケットマップと比べて、どのような変化が見られますか。

全体として、サービスの数が51サービスから97サービスまで拡大しました。中でも、月経関連のサービスやプロダクトを提供する企業は、安定的に増えています。フェムテック関連の起業家は20~40代の女性が多く、身近な課題として取り組みやすいことが理由でしょう。
更年期関連のサービスも3社が追加されており、フェムテックがより幅広い世代に普及し始めていることがうかがえます。

——フェムテックに対するユーザーの関心も向上しているでしょうか。

ヘルステックやベビーテックなどもそうですが、健康や生活に関する問題をサポートするサービスやテクノロジーを誰もが活用できるようになりました。加えて、現代では女性の社会進出が進み、収入も増加しています。
女性たち一人一人が心身の課題や問題意識を見つめる機会も増え、フェムテックへの関心やニーズはおのずと上昇しています。2020年の4月にオープンしたフェムテックアイテムを扱う私たちのECサイトでは、月間の売上高が半年で約20倍となりました。

平均的に、女性が多くの男性に比べて、健康に対してかけるコストが多いとされること、また、健康、生活、性生活、ライフイベント等に関するテーマをタブー視したり特別視したりせず、きちんと課題として浮上させ、話し合ったりアイデアを出し合ったりすることの重要性を感じる人が増えていることも、フェムテックの成長のための大きな軸になっています。

先進的なフェムテック企業や、セレブリティ、メディアによる情報や意思の発信や、SNSやイベント等での自由なディスカッションの拡大も、市場を力づけてきました。
また、タブー視されてきた問題に対して声を上げやすくなったという点で、関連して語られることのあるムーブメントの一つに、2017年に米国の女優のツイートをきっかけとした「#MeToo」運動があります。沈黙されてきた問題が顕在化することで、やがては性別・性自認を問わず多くの人々からの共感や告白が集まり、社会現象となりました。


フェムテックを通じた価値観の変容が表面化

——メディアやECを中心に、フェムテック関連のアイテム等を目にする機会も増えてきました。2020年7月に日本初のフェムテック専門の路面店をオープンされたそうですが、どのようなものを扱っているのでしょうか。

ECと同じく、月経用のアンダーウェア(吸水ショーツ)やカップ、尿もれ予防に役立つ骨盤底筋トレーニング用のデバイス、セクシャルウェルネスのためのアイテムなどを販売しています。国内未販売の海外のデバイスなども展示しています。

六本木のセレクトショップの一角にオープンした「fermata store in New Stand Tokyo」。アパレルや日用品を見に来たことをきっかけに、フェムテック商品に触れる人も多い
——来店されるのはどのような方々ですか。

私たちが主催するイベントなどに参加される方は、そもそもフェムテックに関心が高い20代、30代の女性が中心ですが、店舗には幅広く10代~70代が来店されます。目的のある方、たまたま立ち寄られた方など、動機は様々です。定期的に来られる方や、友人や家族を伴って来られる方などもいますし、もちろん男性もいらっしゃいます。

——ユーザーからの反応などはいかがでしょうか。そこから気付いたことなども教えてください。

フェムテックに初めて触れられる方にも、そうでない方にも好評です。店頭にはどんなアイテムもオープンに置いてあり、実物に触ったり、店舗スタッフのfermataメンバーから詳しい説明を受けたりすることが可能です。それを多くの方がポジティブに捉えてくださっています。

以前からECにも、「実物を見てから購入したい」「相談して選びたい」といった希望は多く寄せられていました。実際に、「こういう便利なものがあるとは知らなかった」「恥ずかしいと思っていたけど、直接相談できて良かった」といった感想が多く、フェムテックを通じた価値観の変容が起きていることを感じます。

実は多くの人が感じていた不便さや悩みがあったのに、生活の中でそれに向き合ったり、話し合ったりできるリアルな環境は多くはありませんでした。女性同士でも、健康面の悩みや対策をシェアできる機会は少なく、圧倒的に話し合われていなかったのだと感じます。話し合いによる変化は大きいと思います。

——話すことによって課題が顕在化したり、変化が起きたという具体例はあるでしょうか。

取材していただいたあるテレビ番組が取材に来られた時、リポーターの女性が「自分には尿もれに関する悩みがあり、対策アイテムやデバイスに関心がある」と話してくれました。すると、放送を見て「実は自分も同じ悩みがある」という方が何人も来店されました。

また、ある会社では、女性の上役の方が社員の福利厚生の一環として、生理用ショーツ(吸水ショーツ)をまとめて購入されました。それが女性社員同士で月経中の体調不良についてオープンに話すきっかけとなり、結果的に仕事のフォローをし合えるようになったそうです。
職場のもともとの雰囲気や文化などの影響も大きいと思いますが、女性たちが自分の健康面を見つめ直し、うまくシェアし合うことで仕事がスムーズになるというのは、ポジティブなことではないでしょうか。

社会の中に“デリケートな悩みやもやもやを話してもよい空気”ができていることは、フェムテックの活性化と女性のQOLの向上を考える上で、とても重要なことだと考えています。


テクノロジーによって健康状態をよりよく知る

——フェムテックアイテムやサービスの中で、最近人気があるものや、注目されているものを教えてください。

国内で最近特に注目されたのが、「Nagi(ナギ)」や「Bé-A(ベア)」、「Period.(ピリオド)」等のブランドによる、月経用の吸水ショーツです。
快適で便利でサステナブルといったメリットはもちろん、スタイリッシュなデザインや、等身大のモデルによるボディポジティブなイメージは、予想されていた以上に多くの女性の共感を呼びました。
ボディポジティブとは、個々の容姿や体形による多様性を受け入れ、自らのありのままの身体を愛そうというムーブメントです。

クラウドファンディングでも多くの支援金を集めて話題に。今までの一般的な生理用品のイメージとは異なるスタイリッシュな印象。新たな選択肢として多くの女性を惹きつけた

先述の通り、更年期関連のサービスやプロダクトにも期待感が寄せられています。国内では、オンライン相談サービス「TRULY(トゥルーリー)」、更年期カップルのコミュニケーションをサポートする「wakarimi(ワカリミ)」、更年期向けのサプリメント「Rimenba(リメンバ)」などが存在感を見せています。
グローバルでは、不定愁訴の予測やサポートに役立つウェアラブルデバイスも登場しています。

他にも、妊活をサポートする「kegg(ケグ)」(日本未発売)、骨盤底筋トレーニングができる「エルビートレイナー」などの、アプリと連動したデバイスは、店頭で関心を示される方が多いアイテムです。
妊婦さんのお腹に貼り付けて、赤ちゃんの心音や子宮の状態をモニタリングできるデバイス「bloomlife(ブルームライフ)」(日本未発売)なども、店頭での展示品に興味を示してくださる方が多いデバイスです。どれも、テクノロジーによって、女性が自分の身体の状態を知ること、自分の身体と対話することがテーマになっていると思います。

デバイスとアプリの組み合わせによって、身体の状態を可視化。記録やシェアもできるようになり、対策を立てやすくなった

——今後、注目を集めそうなアイテムやサービスには、どんなものがあるでしょうか。

“テック”ではありませんが、北米を中心に、CBD(※)を含むオイル等のリラクゼーションアイテムが人気を呼んでいることも、面白いトピックだと思います。月経時やPMS、更年期の痛みやイライラを、自然のオイルの香りなどで和らげたいと考える人が増えているのかもしれません。

※ 依存性や陶酔作用のない大麻草の成分。医療活用への研究が進んでいる。

それから、「メンテック(Men×Technology)」の分野にも可能性があると思います。カップル間の妊活をサポートするアプリもありますし、精子のセルフチェックが可能なキットなどのサービスが登場してきました。妊活の際の課題などについて考えると、今後必要とされるのが決して「フェムテック」だけではないことが見えてくると思います。
「女性向け」「男性向け」にこだわらないジェンダーフリーな観点からのサービスも現れるでしょうし、病気の予防や育児のサポートなど、ヘルスケア全般やベビーテックとまたがるサービスやプロダクトは順調に増えていくでしょう。

(左)精子の濃度と運動率を測定するセルフチェックキット「Seem(シーム)」、(右)精子の観察ができ、別途展開されるオンライン診療サービスでも利用が可能な「TENGA メンズルーペ」などの“メンテック”が登場


ユーザーへの固定観念を捨てて“個”として接する

——フェムテックを始め、主に女性を対象としたアイテムやサービスに関わるビジネスやPRに取り組む場合、どのような意識を持つべきでしょうか。

いくつかポイントがあると思いますが、まず、アプローチすべき対象を“女性全般”ではなく、“個”として認め、接することは大切だと思います。
当たり前のことですが、相手の考え方や姿勢を尊重しなければ、意見や希望を汲み取りにくいですし、サービスやアイテムに対するこちら側の考え方も受け入れられにくいでしょう。

——「女性だから」といったことにこだわりすぎないコミュニケーションを心掛けることが大切でしょうか。

そうだと思います。女性同士であっても、固定観念や思い込みは禁物でしょう。
例えば私たちも、フェムテックに対するより深い理解や認知を広げるためには、年上の方々へのアプローチが必要だと思っています。
フェムテックは現状、若者中心のムーブメントとして捉えられる向きもありますが、市場としても文化としても成熟し、より多くの人に役立ててもらうには、もう少し上の世代の理解も欠かせません。

fermata株式会社 CCO Co-founder 中村寛子(なかむら・ひろこ)さん

しかし、例えば私は同世代の友人や姉とは月経や性について比較的カジュアルかつオープンに話すことができ、悩みや課題感も共有できますが、それと同じ感覚で母親や年長の先輩と語り合えるかというと、残念ながらそうでない場合もあります。

話し合い方を工夫するなどして、理解し合えるポイントを探り、分かり合える部分を見つけられればベストだと思います。年代だけでなく、性別や性自認についてもそうでしょう。「女性だから」という部分だけに囚われると、むしろ意識の分断や、無駄な摩擦を招く可能性もあります。

もちろん、全ての女性が「何でもオープンに話したい」と思っているわけではありません。個人的なことを話したくない方もいるでしょう。本人にとって顕在化していない悩みや課題もあるかもしれません。
ですから、「とにかく話し合うべきだ」「デリケートな悩みもどんどん開示すればいい」ということではありませんが、やはり話しやすい雰囲気や、受け入れられる環境をつくっていく、ということが、まず大事なことではないでしょうか。

——アピールしたいことを伝える具体的なコツなどはあるでしょうか。

社外の方にフェムテックについて説明する際や、店頭で接客する際に意識することですが、私の場合は主張やメリットを伝える前に、体験から話すようにしています。例えば、「使ってみて、自分はこう感じました」と話すことで、対話しやすい空気を感じてもらい、フェムテックが身近な選択肢の一つであることを受け入れてほしいと考えているのです。

開発やPRなどの際には、プロジェクト等のメンバーに様々な性別、文化、考え方の人を含めることで、多様な価値観を反映させていくことも、重要な方法の一つかもしれません。ただ、女性を増やせば女性向けのビジネスが成功するかというとそうではないので、難しいところではあります。

——今後もフェムテックが順調に拡大していくためのカギはどんな点にあるでしょうか。

女性一人一人が自分の身体や生活をよく知り、課題や不自由さを壊していこうとすることそのものが、今後もフェムテック躍進の原動力になると思います。

また、企業などを対象にフェムテックの重要性をお話しすると、どうしても「女性活躍推進」のみに結びつけられることがあります。例えば、「うちは雇用や評価の制度を変える対策を済ませており、特に課題はないし、フェムテックは必要ない」といった姿勢がみられることがあるのです。
もちろん、評価などの平等性はとても重要です。ただ、女性たちのサステナブルな雇用を保つには、日々の健康や暮らしの中での細かな課題を見つめることや、企業と人との間の良好なコミュニケーションが欠かせません。別物だと考えずに、ぜひ両方への意識を向け続けてほしいと思います。
個の団体である企業がフェムテックへの理解を示せば、社会にムーブメントが広がり、企業に属していない人たちを始め、より幅広く伝わるでしょう。

私たちも、今後も情報発信やフェムテックと人々が出会えるプラットフォームの創出を通じて、女性の身体の悩みや不安、不便を見つめるサポートを続けていきます。将来的に、女性はもちろん皆が生きやすい世界を目指していきたいと思います。

fermataのコンセプトムービー。 「人類半分の女性が健康になれば、世界が変わる」フェムテック市場のポテンシャルは大きい
健康や性というテーマを見つめることは、女性だけではなく全ての人に関わる課題です。多様性を生かした社会づくりを推進する上でも、フェムテック市場の現在の進化と拡大には、強い意義と影響力が認められそうです。
将来的には、フェムテック関連のサービスを介したデータを安全に収集し、医療や育児面に繋げるサービスなども形成されていく可能性が高いでしょう。引き続き、高齢化が進む世界各国で急拡大するヘルステックの一分野としての成長にも期待が持てそうです。
Written by: BAE編集部

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