2023-01-18

国内でも認知度や実践度が高まる「エシカル消費」の現状と展望

未来の市場を支える“ライトなエシカルファン”が増加
環境や社会に配慮した消費や行動を優先する「エシカル」。生活者の認知度や関心は向上していますが、具体的な消費行動にはあまり繋がっていない、との声も聞こえてきます。

そんな中、ユーザーとのコミュニケーションを順調に広げているのが、エシカルアイテムのみを扱うプラットフォーム「エシカルな暮らし」です。Instagramで4万人以上のフォロワーを獲得し、ECや実店舗も人気の「エシ暮ら」のほか、街中でのゴミ拾いイベントなども運営するGab(ガブ)の山内さんに、エシカルアイテムやイベントの魅力をユーザーにどう伝えているのか、ポイントなどを伺います。


人を動かすのは「正しさより楽しさ」

――エシカルをテーマに、ECやイベントを展開されていますね。どのようなビジネスに取り組まれているのかを教えてください。

「社会課題解決の敷居を極限まで下げる。」をミッションに、主に二つの事業を展開しています。一つが「エシカルな暮らし(通称:エシ暮ら)」、もう一つはゲーム感覚のゴミ拾いイベント「清走中」です。

「エシ暮ら」のスタートはInstagram上のメディアで、広告は一切せず約1年半でフォロワーを4万人以上に増やしました。「エシカルについて学びたい」「エシカルアイテムを詳しく知りたい」という方々に向けて発信してきましたが、社会を変えるには行動が必要です。
そこで、エシカルな意識を具体的な購買に繋げるためにエシカルアイテムが買えるECを立ち上げ、ポップアップストアの開催を経て、2022年9月から常設店舗もスタートさせました。

累計来客数は16,000人以上。アパレルや生活用品からジュエリーまで多様な120以上のブランドを扱う(2022年12月現在)。国内最大級のエシカルプラットフォーム

「清走中」は「ゴミ拾いをエンタメ化する」がテーマで、ゲーム感覚で街中のゴミ拾いを楽しめるイベントです。参加者にはゲームや謎解きといったミッションに挑戦しながらゴミを拾っていただき、成果に応じた賞品なども用意しています。

全国13の地域での開催実績があり、累計参加者数は2,000人以上、ゴミ回収の合計量は1,400kgに上る(2022年11月時点)。企業研修向けのプランなどもある

我々の起業のきっかけに「渋谷のポイ捨てをゼロにしたい」という目標があり、過去にも、街中に捨てられたゴミの位置を報告してもらい、データ化して、街清掃の最適化や広告付きゴミ箱の設置などに繋げるアプリを展開していました。
18万件以上のデータを集めましたが、折しもコロナ禍に入って人流や屋外広告が激減したためこちらはストップさせ、後に「清走中」をスタートさせました。

過去には、ゴミデータマッピングサービス「MyGOMI.」やポイ捨てデータを分析・活用できる「MyGOMI.Analytics」を展開

――「エシ暮ら」と「清走中」のユーザーはどのような人々ですか。

「エシ暮ら」のユーザーは30代周辺(25~34歳)の女性が最も多く、次いで40代、10~20代となっています。男女比は83%が女性です。健康問題や子育てをきっかけにヘルスケアや社会貢献に関心を持ち、エシカルに関する情報感度が高いことが特徴です。

「清走中」は、小学生の参加が6割で、主に30代・40代の保護者の方が同伴されます。その他は年齢も性別も様々で、人気テレビ番組のイメージを踏襲しているため、ひたすら「楽しそうだから参加した」という方がほとんどです。

――「清走中」参加者にゴミ問題などに関心がある方は少ないというのは意外な気がします。

はい。実は、社会課題やSDGsに強い関心を持つ方はわずかで、「エシ暮ら」のユーザーとは傾向や意識が異なっています。

ただ、「清走中」に参加した後に「自分の生活圏にこんなにゴミがあったんだ」という気付きを得られる方はとても多いです。それが、例えば友だちのポイ捨てを注意したり、普段からゴミ袋を持ち歩くようになるなど、結果的に「捨てられる前の段階から街中のゴミを減らす」という意識やアクションに繋がっています。

「人は正しさでなく、楽しさで動く」というのが私たちの哲学の一つですが、「清走中」はゲーミフィケーションによってインパクトが最大化することを証明するイベントになっています。

500~1,000円程度の参加費が設定されている回もあるが、参加者の多くが純粋に「楽しめるイベント」として体験しに来てくれる。毎回予約は数日で満員になるという

一見、ポイ捨ての少なそうな地域で100㎏以上のゴミが集まる場合も。開催地以外からの参加率も高く、周辺の消費や観光の促進にも繋がっている


ライトな“エシカルファン”も幅広く増やす

——「エシ暮ら」についてもう少し詳しく教えてください。ユーザーやフォロワーにどのような情報を発信されているのでしょうか。

Instagramと一部LINEを通じて、主に、厳選したエシカルアイテムのレビュー、環境問題についての5分でわかる解説、SDGsに関する最新情報をデイリーでお伝えしています。
「エシ暮ら」Instagramでは、厳選したアイテムに関するレビューや解説等のほか、社会・環境・人権などにまつわる骨太の話題も扱う

――発信の際は、どのような点を重視されているのでしょうか。

まず、どんな話題についても、ユーザーの関心や疑問に応え、メディアとしての信頼を高める情報の提供を心掛けています。

「『エシ暮ら』が薦めるものなら大丈夫」という信頼を裏切らないよう、そもそもアイテムは厳しい目線でセレクトしており、私と担当ディレクターがブランドから直接お話を聞き、詳細を開示してくださるブランドのみを取り扱っています。裏側の透明性を担保することは、エシカルアイテムを扱う上で、絶対必要な条件です。
その上で、どの部分がエシカルなのか、どの工場でどの素材を使っているかという事実や、クリエーティブへのこだわりやブランドのヒストリーなどをなるべくわかりやすく伝えるのが、私たちの役割です。

――エシカルに関する情報をユーザーに伝えるためのポイントなどを教えてください。

ポイントはいくつかありますが、やはり透明性が重要で、まず全開示のスタンスで、ブランド側の取り組み等をきちんと伝えることです。例えば、アイテムの一部にプラスチックを使っていたとしても、それがなぜ必要で、今後改善していきたい、という理由や情報を開示していけば、お客様はそれを選ばれるでしょう。濁してしまえば逆効果になります。

ユーザーの多くは商品の見極めに慎重で、エシカルウォッシュ(倫理的、道義的な取り組みであると装ってビジネスを展開すること)に騙されない目を養われています。自分で考え、「社会問題の解決に繋がっている」と認識できる状態で買い物ができることを大事にされているのです

また、そういう方々に対して、例えば「こういうモノを使い続けると環境にひどく悪い影響がある」といったような、恐怖や罪悪感を煽る表現や露悪的なビジュアル、押しつけるような言い方などは避けています。環境や人権などのシリアスなテーマについても、身近に感じてもらえるよう段階的で、やさしく簡潔な表現や問いかけを徹底しています。

エシカルなアイテムを手にすると、優越感やユニークな体験があり、楽しさと満足感が湧いてきます。それを十分感じてもらうには「無理なく、楽しく」というのが本当に重要で、「そうしなければ良くない」といった罪悪感が差し込まれると、真面目な方はただ普通に暮らしているだけでも疲れてしまうのです。

ユーザーが「エシカル疲れ」に陥らないように、それぞれが考えられる範囲で考え、多角的な視点を保ち、楽しくエシカルを実践することをサポートできるようなコンテンツを意識しています。
誰でもそうですが、最初から完璧にとはいきませんので、段階を踏んで実践に進み、その中でエシカルを選んでもらうというのが理想です。

また、なんとなく関心を示してもらうだけでも貴重なことなので、「エシカル商品を買ったことはないけれども、『エシ暮ら』は見ている」というライトな層も置いていかないようなわかりやすい表現や、言い回しなどにも気を配っています。実際に無理なく楽しいコンテンツであることが、ライトな層にもフォローし続けてもらえる理由になっていると思います。

――実店舗も展開されていますが、来店客はやはり「エシ暮ら」のファンの方が多いのでしょうか。

そうですね。遠方から熱心なフォロワーが来てくださることも多いですし、ここ数年マーケティングや報道の影響でエシカルの認知度は上昇していますので、「エシカルになんとなく興味がある」という方もたくさん来店されます。

現状のエシカル市場では、オフラインの価値が非常に高いフェーズにあり、実店舗もメディアの一部と表現できます。もともとゴミになるはずの素材だったり、アップサイクルの意義であったり、というエシカルアイテムの付加価値や魅力を画像や動画のみで全て伝えることは難しく、やはりリアルでアイテムに触れていただいて、納得してもらう必要があるのです。

エシカルアイテムを実際に見たり使ったりすると、先ほど述べたような優越感や感動が得られます。するとブランドのファンになり、ECでも購入されたり、SNSで話題にされたりするようになるため、この循環が、エシカル市場では現在の重要な流れの一つになっています。

有楽町マルイの「エシカルな暮らし」常設店舗。2022年12月のリニューアル以降は廃棄予定のユーカリを使ったダイナミックなアーチが登場


熱意あるZ世代は“消費の一歩手前の段階”にいる

――「Z世代はエシカルに高い関心を持っている」と言われています。この点についてはどう分析されていますか。

確かに、生まれた時からネット上のグローバルな情報や意見に触れているZ世代にとって、「社会問題や環境を良くしていきたい」という意識は当たり前で、多くは熱量も高く持っています。
ただ、実はZ世代は案外エシカル消費をしていません。主に所得の面から継続が難しく“買わないというより買えない”のです。

「エシ暮ら」のメインユーザーである30代周辺の女性の多くは「家族の健康のために」「子どもの未来のために」といった高いモチベーションがあり、衣食住においてエシカルな選択をすることを苦にされません。
しかし、若い層はまだまだ健康や社会問題を自分ごと化しきれない部分もあり、エシカル消費には直結しづらい状況にあります。自分の周囲の学生などを見てもエシカルは話題には上りますが、多くは価格帯の低いアパレルやドラッグストアのコスメ等を購入しています。

「Z世代に向けたアイテムを作るなら、サステナブルなものを踏まえなくては」と考えておられる企業やブランドは多く、私たちもよくご相談を受けますが、現状ではZ世代に向けたエシカルなモノづくりの難易度は高いでしょう。
嘘のないエシカルアイテムであり、Z世代が好むトレンドや機能性を押さえていて、なおかつ彼らが買える価格で売る――というのは、相当無理をしないと実現は不可能です。小売りとしては、例えば、自社内にエシカルブランドを設定して、30代周辺の女性向けにアプローチしたほうが現状ではうまくいくはずです。

――社会問題等に対するZ世代の意識は、現状どんな行動に結びついているのでしょうか。

Z世代はお金がなくても熱量や情報収集力は高く、フットワークが軽く時間があるため、イベント等への参加等にはとても積極的です。
「エシ暮ら」が最初のポップアップストアを開催した際もボランティアスタッフを募りましたが9割以上が学生で、30人以上の応募がありました。現在のスタッフは全て有償ですが、「清走中」も同様で、高校生や大学生で手伝いを希望してくれる方がたくさん来ます。

現在はそのような状況ですが、私たちとしては今後Z世代の資金力や選択肢が増えた段階でエシカルアイテムを選んでくれるような方向性を示していくことを継続していきます。
エシカル消費まで届かないZ世代だけでなく、エシカルアイテムはまだ購入したことがない人々も含めて、潜在層が厚いのが現在の国内のエシカル市場の状況です。

――現状のライト層や潜在層に向けて、どんなアプローチを展開されていますか。

情報発信以外の部分で言うと、「一度、エシカルから外に出る」ということを考えています。例えば、クリエーターやインフルエンサー、有名キャラクター等のIP等とのコラボなどを通じてアイテムに別の付加価値をつけ、「エシカルだから」という領域で完結せず、「エシカル×推し活になるから買う」という選択肢を広げることを計画しています。

グローバルに目を向けると、イギリス国内でのエシカル市場の規模は、2019年で約15兆円、2020年で約19兆円に上るというデータがあります(※)。しかし、本当にエシカルを軸に買っている人ばかりなのか、市場の内面は捉えにくいところです。
実は、牽引しているのはデザイン性やヘルスケアといったベネフィットであるかもしれませんし、海外での成功を国内にそのままスライドして当てはまるかどうかは難しいと思います。
※ 2022年1月「Ethical Consumerism Report 2021」Co-opによる

むしろ、“推し活消費”との組み合わせなど、国内ならではのアプローチを模索したほうがブレイクスルーは近づくのではないでしょうか。日本人の特性としても、浸透するスピードや普及後の継続率は高いので、国内には国内独自のポテンシャルがあると考えています。

消費者庁による2019年度の調査を引くと、2016年度と比較してエシカル消費に興味があると答えた人は23.2%増加し、実践している人は7.1%増加しており、市場の成長率自体は高いものと見ています(※)。
※ 2020年2月「令和元年度エシカル消費に関する消費者意識調査報告書」消費者庁による

――今後の展開や、目標などを教えてください。

今後も、「エシ暮ら」のお客様にしっかりと満足していただける取り組みを続けながら、広くエシカルのファンを増やしていきたいと思います。
また「清走中」のようなイベントを通じても、社会課題への行動変容を促していきます。「清走中」は街中のゴミが多い海外でも実現の可能性が高いと考えており、日本以外の国での開催も視野に入れた展開を行うつもりです。

具体的には、まずは先述のようなコラボアイテムや、様々な企業のSDGsに関する取り組みやエシカル商品の開発、情報発信などのサポートを行い、また「エシ暮ら」の実店舗も増やす予定です。

近い将来、エシカルを包括できるバリューチェーンを構築し、生活にまつわるあらゆる売り場にエシカルという選択肢が並ぶよう、私たちにできることは全てやっていきたいと考えていますので、ぜひ応援してください。

株式会社Gab 代表取締役CEO 山内萌斗(やまうち・もえと)さん
国内でもエシカルやSDGsの認知度は向上し、エシカル消費の潜在層の厚みは着実に増しているようです。エシカルに熱心なユーザーとのコミュニケーションを続けながら、“ライトなエシカル層”にも気軽に情報に触れ続けてもらい、ファンを増やしていくことが、今後の国内でのエシカル消費のブレイクスルーを左右するポイントになるでしょう。
トレーサビリティ、透明性、ヒトとモノとの繋がり等を、ユーザー深度にかかわらずわかりやすく表現する丁寧なアプローチは、広く一般消費財のブランディングにおいてもヒントとなりそうです。

Written by: BAE編集部

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