2021-06-03

グローバルで拡大する「エシカル消費」。企業やブランドの評価を左右する新たな軸に

環境、人権、地域への配慮が“当たり前”の時代
環境保全や、健全な地域社会・地域経済づくり、人権などに配慮した「エシカル消費(倫理的消費)」。ステイホーム中に、自らの健康と環境とのつながりや、身の回りのものの選び方を見直す人が増えていることなどから、注目度が増しているキーワードです。
「エシカル消費」を意識するユーザーは、どのような点に関心を示しているのでしょうか。国内外の企業では、具体的にどのような取り組みが進められているのでしょうか。一般社団法人エシカル協会の大久保さんにお話を伺います。


SDGsや国連のスピーチの影響で認知が拡大

——「エシカル消費(ethical=倫理的な)」とは、どのような考え方や消費行動を指すのでしょうか。

「人と社会、地球環境、地域に配慮した、思いやりのある考え方や行動」が、エシカル消費の基本的な考え方です。先進国による大量生産・大量消費などに端を発する問題・課題に対応するもので、エシカル協会では主に3つに分類しています。

社会への配慮 人・社会に配慮した消費や行動。代表的な考え方にフェアトレードや社会的責任投資(フェアファイナンス)など
環境への配慮 グリーンコンシューマーや、低炭素製品、サステナブルな生育・生産方法に代表される、環境を意識した消費や行動
地域への配慮 東日本大震災以降に活発化した応援消費や、地産地消、伝統工芸などに着目した消費や行動

近い考え方に「サステナブル(持続可能な)消費」がありますが、エシカルな考え方はサステナビリティとの親和性が高く、サステナブル消費もエシカル消費に含めて捉えられることが多いようです。

——エシカル消費は、いつ頃から注目されてきたのでしょうか。

1989年に英国で創刊された『Ethical Consumer』という不買運動に関連した情報誌によって、エシカル消費という言葉が誕生しました。1997年には、同国のブレア首相(当時)が、政権の目標の一つに“エシカル”を掲げ、その後、北欧諸国や米国を中心に認知が拡大しました。

日本では、2000年頃からエシカルファッションやフェアトレード(※)が知られ始めましたが、「エシカル消費」への認知が一般に広まってきたのは、ここ2〜3年のことです。

※ 途上国と先進国の間の公正な貿易を推進し、経済格差や労働環境の課題を健全化する取り組み

——ここ数年で注目度が上昇しているのは、国連が掲げる持続可能な開発目標「SDGs」の採択(2015年)による影響も大きいでしょうか。

はい。エシカル消費を行動に移すことが、SDGsの目標12「つくる責任 つかう責任」をはじめとする多くの目標をカバーできることから、関連して論じられています。

目標1「貧困をなくそう」、目標10「人や国の不平等をなくそう」、目標13「気候変動に具体的な対策を」など、エシカル消費はSDGsが掲げる多くの目標項目に関わる

2019年にスウェーデンの環境活動家、グレタ・トゥーンベリさんが国連の気候行動サミットで地球温暖化への対策や行動を呼びかけ、若者世代を中心に環境問題への関心が向上したことも、エシカル消費が注目されるきっかけの一つになりました。


サプライチェーンの透明化に取り組むファッション業界

——エシカル消費の市場規模はどれくらいに上るのでしょうか。

先述の雑誌『Ethical Consumer』では、英国のエシカル消費市場は年々成長を続けており、2019年時点で約440億ポンド(約6.7兆円)に上ると報告しています。
エシカルは捉え方が様々ですし、ファッション、食、化粧品、リテールなどを中心に、影響の強い業界・業種も幅広いため、市場規模の算出や予測は難しいのですが、参考になるデータです。

新型コロナウイルス感染症の影響によって、消費や生活スタイルの見直しをはかる人が増えていること、差別や貧困、環境破壊といった課題がより浮き彫りになっていることも、エシカル消費が今後さらに必要とされ、市場が拡大していく理由に通じていると思います。

新型コロナウイルス対策の自粛期間によって、30.9%がエシカル消費に対して「より意識するようになった」と回答
※ 2021年3月「エシカル消費 意識調査2020」株式会社電通による

——グローバルで注目される、エシカル消費に関連した企業の取り組みを教えてください。

2019年にフランスのG7サミットで発表され、一躍脚光を浴びた取り組みに、ケリング・グループを発起人とした「ファッション協定」があります。

ファッション業界全体の環境負荷低減を目標に、科学的根拠に基づく計画と実践を盛り込んだイニシアティブで、14ヵ国で200以上の企業・ブランドが署名しました(※)。日本企業では、2020年にアシックスが初めて参画しています。

※ 2021年4月時点

ファッション協定には、グッチ、ステラ マッカートニー、プラダのほか、シャネル、バーバリー、アディダス等の有名ブランドが参画。環境への提言やメッセージを日々発信する


ケリング・グループはこの他に、「EP&L」という革新的かつ継続的な取り組みも実践しています。
サプライチェーン全体のCO2排出量、水使用量、大気汚染など、環境負荷を測定し、事業における環境負荷を可視化・定量化しています。環境負荷は貨幣価値に換算され、持続可能な事業戦略に役立てる、という取り組みです。

ケリング・グループによる「EP&L」解説図(同グループ公式サイトより)。事業による環境への影響の可視化を実現。消費者からの信頼性を高める取り組みとして注目される


環境に対する取り組みのほかにも、製品加工に携わる人々の労働条件や原料の調達先の公開など、サプライチェーンにおける情報収集や透明化に関する取り組みは、食品業界や化粧品業界など、様々な業界へ広がっています。

——国内でも、エシカルなファッションアイテムや食品などを目にする機会が増えてきました。注目される取り組みなどはあるでしょうか。

身近なところだと、オーガニックコットンのウェアやチョコレートの製造販売を通じて途上国の自立を支援する「ピープルツリー」が、国内におけるエシカルな取り組みの草分けとして知られています。

洗剤などのメーカーの「サラヤ」も、原材料の調達をはじめ、製造、販売、広告から、製品使用後の環境負荷低減に至るまで、幅広く多様な取り組みを展開されています。

フェアトレードやサステナビリティに関連する自社の取り組みを公開し、情報提供も積極的に行う

「ファクトリエ」は、日本製の製品工場直結した、ファッションブランドで、職人の技術を生かしたものづくりを行っています。環境に負荷をかけない素材やリサイクル原料を選ばれていますし、アパレルが抱える大量廃棄問題に対しても、“敢えて作りすぎず適正な量を提供すること”を大事にされています。エシカルなものを買うだけでなく、“大事に作られたものを長く使う”ことも、エシカル消費がすすめる大事な考え方の一つです。

大手スーパーの「イオン」は、2002年に生活者から寄せられたリクエストに応える形でフェアトレード製品の品ぞろえを充実させるようになりました。PBでもフェアトレードによる商品開発を行ったり、MSC認証・ASC認証(※)を受けた魚介類の販売などを行っています。

※ MSC認証は持続可能な天然漁業、ASC認証は持続可能な養殖漁業の認証

食品メーカーの「森永製菓」もフェアトレード製品の開発に取り組んでいます。また、チョコレートの売上の一部をカカオの原産国であるガーナなどの教育支援に役立てる「1チョコ1スマイルキャンペーン」を毎年実施しています。

——エシカルへの取り組みが増えている業界などはありますか?

規模や内容は様々ですが、エシカルに配慮する商品開発などを進める動きは、コスメやスキンケア商品、日用品や雑貨、家具やインテリア、ペットフードなどのジャンルでも順調に拡大しています。

当協会へも、様々な業界・業種からのご相談が寄せられています。課題感として多いのは、「環境や人権についてスタッフの教育を推進したい」「エシカルにどう着手すべきか、知識やアドバイスが欲しい」といった内容です。他社の取り組みに関心を寄せる企業も増えており、法人会員ミーティングなどを開催しています。

また、流通関連やEC等からのお問合せや、ITや人材関連企業等からの講演のご要望なども増えました。多くの業界で、エシカルは今のビジネスパーソンにとって必須の知識だと捉えられています。


「環境や社会にいいものを選びたい」という意識が拡大している

——エシカル消費に対する、人々の関心や注目度について教えてください。欧米では若い世代を中心に関心が高いと言われていますね。

はい。欧米ではそもそも、信条や思想を根拠にファッションや食を選ぶ人々が日本に比べて多いこともあり、エシカルへの関心は高いようです。環境問題や社会貢献に関心の高いZ世代などでは、「エシカルでないと買わない・エシカルでないことは選ばないのが当たり前」という人もいますね。

——国内での関心などはどのような状況でしょうか。

2019年に報告されたファッション事業を展開する豊島の調査では、「エシカルファッションやサステナブルなど、環境や社会に配慮したファッションについて、7割以上の人が取り入れたいと考えている」と報告されています(※)。
2021年に報告された電通による調査でも、「半数以上が『エシカルな商品・サービスの提供は企業イメージの向上につながる』と考えている」という結果が出ています。ただ、「『エシカル消費』の名称を知る人は4人に1人程度」でした(※※)。

※  2019年9月「ファッションの環境意識調査」豊島株式会社による
※※ 2021年3月「エシカル消費 意識調査2020」株式会社電通による


認知度などは調査設計などによる違いもありますし、欧米に比べれば後れを取っていますが、「環境や社会にいいものを選びたい」という人々の意識は底上げされていると感じます。

生活者のエシカルな商品の購入条件と、購入理由に関する調査。「適正な価格設定と根拠のある説明が有効」と分析されている
※ 2021年3月「エシカル消費 意識調査2020」株式会社電通による


2017年からは消費者庁もエシカル消費の普及・啓発活動をスタートさせ、今年からエシカル消費が中学校の教科書でも取り上げられるようになりました。遠からず、“デジタルネイティブ世代”のような、“エシカルネイティブ世代”が台頭してくるのではないでしょうか。

もちろん、若い世代以外からの関心も低くはありません。私たちの主催する講座・講演には60代、70代の方もたくさん参加されていますし、「エシカルをライフスタイルに取り入れたい」という感覚を持つ人も、世代を問わず増えていると感じています。


背景やストーリーの発信による共感がポイント

——企業がエシカルなプロダクトに取り組む場合、どんな点がポイントになるでしょうか。

エシカルでありながらも、品質やデザイン性、機能性の高い、魅力的なプロダクトである、ということは非常に大きなポイントです。

以前は、エシカルなものは高い割に正直あまりおいしくなかったり、デザイン性に優れてなかったり、という製品が多いイメージがあり、「これなら普通のものを買いたい」と思う人は少なくなかったのではないかと思います。
しかし、いまは価格的にもバランスが取れてきて、私たちも「少し高くても、素敵だし、エシカルだから買う」という選択が可能になりました。デザインに惹かれて選んだら、たまたまエシカルだった、ということもあるでしょう。

ナチュラル路線ではなく、モードやトレンドを取り入れたアイテムも増加。リサイクル容器「Loop」や、ユーカリの木を使った靴「オールバーズ」などは高いデザイン性で話題に
 

製造、流通、販売と、全ての面から徹底してエシカルに配慮する、といったことは、現状では難しいかもしれません。ただ、「出来る部分からエシカルに配慮しながら、魅力的なプロダクトを投じていく」という姿勢は、生活者に選ばれる上でも、企業・ブランドの意義や価値を高めていく上でも必要になってくるでしょう。
 

——エシカルに配慮する姿勢や、アイテムの魅力などを広く伝えるためには、どんな部分がポイントになるでしょうか。
 

大切なのは、その製品がのようにエシカルに配慮しているのか、取り組みの背景やストーリーなどを情報として発信していくことです。その上で、わかりやすく洗練された商品の見せ方や表現などを工夫していくこともポイントになるでしょう。

エシカルに関心の高い人々は「エシカル風のもの」に惹かれているのではなく、「きちんと理解して、納得できるものを買いたい」と考えています。率直で説得力のある情報発信によって納得や共感を得られれば、SNSなどでの発信力や影響力にも通じていくでしょう。エシカル専門のメディアも注目されています。
 

国内外のエシカルとサステナブルに関する情報を厳選して伝えるメディア「エレミニスト」。ECも併設。エシカル消費に関心の高い人々の注目を集める


生活者の意識と経済の両面でエシカルの価値が向上

——エシカル消費への関心や価値は、今後どのように伸びていくでしょうか。

環境や労働問題などの課題への企業の対応は、金融市場や投資の面から見ても評価を測る新たな指標となりつつあり、グローバルを中心にROESG(※)の重要性は増しています。シンプルにいえば、高いスコアのESGに積極的に取り組む企業の評価は向上するということです。

※ 自己資本利益率(ROE)と、ESG(環境・社会・企業統治)スコアの総合による企業評価

2019年の世界ROESGランキングでの、日本1位は「花王」(世界56位)。公式サイト上でも、自社が取り組むサステナビリティに関する情報提供に力を注ぐ
※ 2019年8月 「世界のROESGランキング」日本経済新聞


また、EUではCO2排出規制などを推進する政策の強化・導入に力を注ぎ、グローバルを牽引しています。代表的な取り組みに、「タクソノミー」規制と呼ばれるEUのルールがあります。
EUタクソノミーでは、環境面で経済活動の持続可能性を判断するために、網羅的な環境上の目的が6つ提示されています。その中でも、気候変動の緩和に関する基準は詳細に定められており、この基準に合わない事業活動は「環境によくない」とみなされる可能性が出てきました。

このような定義や基準がはっきりしたことで、企業側は取り組みを具体化しやすくなり、先進国を中心に訴求効果は大きくなっています。 エシカルやサステナブルを求める生活者からのボトムアップ的な流れと、政策や投資といった大きな動きが組み合わさって、エシカル消費に対応したビジネスを求める流れはより拡大し、スピード感をもって進むと考えられるでしょう。

先述のサプライチェーンにおける環境等への影響の可視化なども、将来的には拡大すると思います。また、ブロックチェーンを活用したトレーサビリティの健全性の担保など、テクノロジーの革新が進めば新たな取り組み等も可能になってきそうです。

プロダクトやサービスに対して、企業による取り組みと情報開示が進み、私たちが「どこがどうエシカルなのか」をきちんと比較検討し、納得した上で消費に関する選択ができるようになればベストでしょう。

我々の協会でも、「エシカル」について考えていただくきっかけとして、「(え)いきょうを (し)っかりと (か)んがえ(る)」という言葉を皆さんにお伝えしています。ぜひ、ライフスタイルとビジネスの両面から、エシカルへの関心と取り組みを深めてください。

一般社団法人エシカル協会理事 株式会社オウルズコンサルティンググループプリンシパル 大久保明日奈(おおくぼ・あすな)さん
「自分の買い物が、環境や社会にとってもいいものであってほしい」という人々の意識は、アイテムや商品はもちろん、企業やブランドそのものに対する評価にも、今後さらに影響しそうです。エシカルなものづくりやPRの際には、「どこがどうエシカルなのか」を率直に開示することで、説得力を高めていくことなどがポイントとなるでしょう。

Written by: BAE編集部

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