2019-06-07

動画コマースの次の潮流は“見て触る”――次世代ECの行く先

CVRを高める「動画を触る」視聴体験
次世代移動通信システム「5G」が普及すれば、動画需要はさらに加速するといわれています。そのなかで現在、「動画コマース」に注目が集まっています。

5G時代に向け、動画コマースはどう進化していくのでしょうか?

ECを中心にリテール領域トップの実績を誇る株式会社エスキュービズム 事業計画本部 シニアコンサルタント 岩井源太さんに「ECおよび動画コマースの現在地、5G時代の動画コマースに求められること」を聞きました。


新しい動画コマースの形が求められる日本の現状

――リテール領域、特にECに強みを持つエスキュービズム社。現在のECを取り巻く環境をどのように感じていますか?

世界的にEC市場は拡大傾向にあります。日本も同様に、順調に成長していますが、成熟していくなかで「画一的で似たものが増えたことで、つまらなくなった」印象があります。

おそらく、どんなECサイトを訪れても、同じような構成・レイアウトパターンのサイトに出会うことが多いはずです。そこには、Amazonや楽天市場など、大手のECサイトのレイアウトを“あえて”模倣することで、ユーザビリティを向上させる狙いがあります。

写真と商品説明があり、オレンジまたは赤の購入ボタンがある。わかりやすく操作しやすいものの、そこにオリジナリティはなく、差別化ができなくなってきました。

5G時代を迎えるにあたり、ECにさらなる新規ユーザーを取り込むためには、これまでにない「新しい体験を提供するパターン」が必要になってきていると感じています。


――“新しさ”という点では、近年「ライブコマース」が注目を集めています。

そうですね。中国ではインフルエンサーを軸にした大きなビジネスへと拡大していますが、日本が同じように成長を遂げるかというと難しいように思います。

なぜなら、さまざまな文化的背景が日本と中国では違うからです。まず、日本人ユーザーがスマホを見るのは移動時間などの“隙間時間”であることが多く、長時間視聴し続ける必要があるライブコマースは、日本人と相性がいいとはいいづらい状況にあります。逆に中国人は、スマホを長時間視聴するスタイルに慣れているといわれています。

また、そもそもECのメリットというのは、「いつでも(時間の自由)」「どこでも(場所の自由)」買える点にあります。しかしライブコマースは“生配信”ですから、時間の自由がそこにはありません。

さらに現在は、インフルエンサーのファンが商品を購入しているというのが実状です。中国くらい人口が多ければビジネスも成立しますが、日本ではそうもいかないでしょう。つまり、日本におけるライブコマースというのは、すでに市場の上限が見えている状況にあるといえます。

こうしてさまざまな観点から見ていくと、日本ではライブコマースではない、「新しい動画コマースのパターンが求められていく」と考えられるわけです。

――「新しい動画コマース」が、なぜユーザーに刺さるとお考えでしょうか?

キーワードになるのは、「新しい体験」です。その点ではVRコマースにも可能性を感じますが、現時点では“まだ早い”という印象を受けています。

弊社ではVR元年といわれる2016年に、VRコマースのサービスを提供した経験があります。VRであれば、まるで店舗を訪れるように、目の前の商品を買うことができる。これは新しいと思いました。しかし実際は、VR空間の店舗を訪問したユーザーは、何をすればいいかわからない、という事態に陥ってしまいました。

これはつまり、当時のユーザーの多くは、VRコマースの楽しみ方がわからなかったことを示していました。そこで弊社も試行錯誤し、ヘッドマウントディスプレイなしのVRコマースも開発したのですが、やはり結果は芳しくありませんでした。それでもトライを重ねるごとに結果は向上していましたから、「失敗ではなく、早かった」という結論に至ったわけです。

ちなみに現在、日本におけるVR市場はオタク文化を中心に伸びていますから、いま攻めるならその文脈が望ましいと考えています。

株式会社エスキュービズム 事業計画本部 シニアコンサルタント 岩井源太さん


ユーザーの潜在ニーズに応える「触れる動画」

――では、ライブコマースでもない、VRコマースでもない「新しいパターン」とは?

触れる動画だと考えています。イメージとしては、「動画コマース」に「インタラクション」を加えたものです。

弊社では、触れる動画「TIG commerce(ティグコマース)」を展開しています。そこには新しい市場、新しいユーザーを開拓できるポテンシャルが秘められていると考えています。なぜなら、これまでの動画は商品の使い勝手を訴求するのがゴールになってしまい、その先につながるものではなかったからです。つまり、「動画視聴をしながら購入」という動線がなかったのです。

その課題解決こそ、動画コマースにいま、注目が集まっている理由ともいえるでしょう。Instagramが昨年スタートした「ショッピング機能」も狙いは同じです。その発展系が触れる動画「TIG commerce」なのです。

株式会社エスキュービズム 事業計画本部 シニアコンサルタント 岩井源太さん

では、「動画に触れる」ことがなぜ有効なのか。不思議なもので、実はタッチできない動画でも、ユーザーは日常的に何度も画面をタップしていることが弊社の調査で判明したんです。つまり潜在的に、「動画をタップしたい」というニーズが存在していたのです。

――「見て、触れて、買う」動画は、通常の動画とどのような違いを生んだのでしょうか?

弊社で実証実験を行ったところ、まず視聴完了率に大きな変化がありました。通常の動画は、3秒後での離脱率が平均75%といわれていますが、TIG commerceにおいては、10秒経過後も10%以下の離脱率でした。さらに、動画を最後まで見るユーザーは通常5%程度だといわれていますが、TIG commerceでは半数以上が最後まで動画を視聴しました。


つまり、ユーザーの「触りたい」というニーズに応えた結果、通常の動画のおよそ10倍の効果を発揮したわけです。加えて、アシストCVRという指標で見てみると、「視聴したユーザー数よりも商品が多く売れる」という結果を生み出しました。これは100人が視聴し、101個以上の商品が売れたことを示しています。

その背景にあるのは、現代が「気になったら触る時代」だからです。それほどにデジタルは、私たちの生活に浸透しているわけです。

――視聴完了率を向上させる「触れる動画」。「触れて、買う」以外にも仕掛けがあるのですか?

はい。インタラクティブな“あそび”を用意しています。動画視聴中に、「きらきら輝くエリア」や「流れ星」が出現し、指定個数を集めると商品が割引になったり、プレゼントをもらえたりする仕掛けを用意しました。

「触れて買う」以外にも、こうした新しい体験があったことがユーザーの離脱率を抑制したのではないかと分析しています。

――実際、ユーザーは動画を見ながら、どんな場所をタップしていたのでしょうか?

たとえば水着の商品動画であれば、商品である水着が主にタップされていたのですが、同時に非動画コマース領域だった出演モデルが着用している帽子やサングラスも多くタップされていることがわかりました。

そこには「ついで買い」というニーズが潜んでいることがわかります。水着を買おうと思っているユーザーは周辺アイテムについても興味を持っているわけです。

具体的な数字は明かせませんが、ユーザーひとりあたりが画面をタップする回数も想像より多くありました。今後、PVやCVRではなく、新たに「画面のタップ数」という指標が生まれる可能性もあるのではないでしょうか。


動画コマースによる「ついで買い」が加速する5G時代

――動画コマースによる「ついで買い」の誘発は、新しいトレンドになる可能性もありそうですね。

はい。ですから、動画をタップできる箇所は多い方がいいわけです。メインの商品だけでなく、動画内に映っているものはすべて購入できるのがベストです。

現在だと、ECサイトで購入すると関連商品がレコメンドされますが、ユーザーはその手法に飽きてしまっています。ですから、一方的に押し付けるのではなく、自発的にユーザーが「ついで買い」できるようにするわけです。それを促すためには「シチュエーションで売る」という意識が重要です。

利用シーンを見せながら、メイン商品と関連商品の購入を「タップしたい」というユーザーの潜在的なニーズに応えながら促す。まさにTIG commerceは、次世代ECのカタチになりえる存在だと感じています。

TIG commerceのイメージ動画。動画内の商品は、専用ページから簡単にコマース機能を追加可能。また既存の動画のTIG commerce化も容易

――最後に、5G時代における動画のあり方について、どのようにお考えか教えてください。

これまで動画の役割は、CMに代表されるように「認知向上」がメインでした。それはウェブ動画においても同様です。しかし5G時代の到来によって、動画は「売るプラットフォーム」へと変化すると考えています。

動画を使ったプロモーションもさらに増えるでしょうし、そこでは認知拡大だけでなく、テストマーケティングや“売る”もセットになる未来を私は想像しています。

5Gの通信速度は、現在主流のLTEの100倍ともいわれています。動画の視聴環境は格段に向上し、よりユーザーと動画の距離は近くなります。そのなかで、動画コマースは5G時代の潮流に沿った自然なアプローチ法として、今後さらに進化するとともに注目を集めることになりそうです。
Written by: BAE編集部

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