2017-12-28

急成長する中国のEC市場

「独身の日」はなぜ成功したのか
これからの世界経済を牽引するといわれるアジア。その中でも人口13憶人を超える中国はひと際大きな市場として注目されています。特にEC市場は拡大し続け、先の「独身の日」の売上額は大きな話題となりました。今回、中国で爆発的に普及した11月11日のセールスの実態、いかにして独身の日のセールが普及したのか、中国のEC市場に詳しい株式会社アイディール代表の小林淳さんに伺いました。


11月11日は「セールの日」として浸透

11月11日は中国語で「双十一」、英語で「ダブルイレブン」と呼ばれ、中国のECサイトでもっとも売り上げが見込める日であるといわれています。中国では1990年代から11月11日が「独身の日」として認識されていましたが、中国の大手ECサイト「Tモール」を運営するアリババ(阿里巴巴 : Alibaba)がこの日に紐づけて、値引きのプロモーションを行うようになった結果、独身の日はわずか数年で「ECサイトがセールスを行う日」として広く認知されるようになりました。
発端は2009年、大手ECサイトTモールを運営するアリババが「寂しさを感じたら、Tモールでショッピング」と銘打ってプロモーションを行ったことでした。以降、プロモーションは年を追うごとに成果を上げ、2017年現在、独身の日はアリババだけで1682億元、日本円に換算して2.88兆円もの売上高を叩き出す一大セールの日となっています。2009年から2017年にかけてどれほど成長したのか、アリババグループにおける11月11日の売上高の推移を見てみましょう。


どの年も凄まじい伸び率ですが、特に2009年から2012年の4年間で急激に売り上げが伸びていることがわかります。アリババからスタートした独身の日のキャンペーンは、今やアリババだけでなく、中国のEC業界全体に広がり盛り上がっています。いまでは、11月11日のセール開始に先立ち、中国のECサイトはこぞって11月10日の夜からカウントダウンイベントを開催する程です。
中国では11月11日以外にも「セールの日」として認知されている日が複数あります。例えば「Tモール」の競合である大手ECモール「JD.com」は創業記念日である6月18日に大々的なセールを実施しています。またアリババでは独身の日以外に12月12日(双十二)にも大規模なキャンペーンを行っています。


「独身の日」成功の裏にある中国の買い物事情

ECサイトにより発信されたプロモーションが、爆発的に広がっている理由は中国の買い物事情にあります。このあたり、中国に向けた越境ECプラットフォームを運営している株式会社アイディール代表取締役 小林淳さん(以下小林氏)にお話を伺いました。小林氏によれば、「中国では伝統的に同業者が一箇所に集まった方が全体の売り上げが高まる、という考え方が強く、同種の物品を販売する問屋街が形成される傾向があります。しかしこの問屋街文化は、現代の消費者にとってはやや利便性が悪いものになっています。駅前で食品から日用品など一通りの物品を購入できる日本とは異なり、いくつかの種類の物品を購入するためにはそれぞれの問屋街を巡る必要があります(上海だけは例外のようです)。中国に住む人々にとって、あちこちの問屋街を巡る必要のないECサイトでの買い物は日本人以上に利便性が高いと感じられる。」とのことです。


また、中国のECモール運営者は今後の伸びしろを見越した上で、日本とはレベルが違う、とまで言われるほどアグレッシブな取り組みを行っています。例えば日本では販売と流通が別の企業によって分担されていますが、中国ではモール運営者が流通業も担っており、業界2位のECモールJD.comに至っては、自社の正社員が消費者のもとへ直接商品を届けることが一般的になっています。他にも、パソコンやスマートフォンが個人に普及していない農村部向けには、モール運営者がパソコンと担当者を配置し、ECモールでの買い物をサポートする、といったことも増えてきているようです。その背景には、現在の中国全土におけるインターネット普及率は50%程度であり、今後も大きな伸びしろがあるという期待があります。小林氏によれば、「先述の農村部に限っても8兆円以上の市場規模がある」といいます。今後の伸びしろが期待できるからこそ、中国のECサイト運営者は様々な取り組みにチャレンジできるのです。


独身の日から学ぶこれからのプロモーション

中国ではECモール発信のキャンペーンが広く認知されています。とはいえ、中国でのECモールでのプロモーションがすべて成功しているとは限りません。2017年だけでもTモール内で行われたキャンペーンは100を超えています。独身の日のキャンペーンも数あるキャンペーンのうちのひとつでした。パートナーのいない独身者たちが集まって交流する11月11日の習慣に合わせて「寂しさを感じたら、Tモールでショッピング」というキャッチコピーで行ったプロモーションの反響が良かったために、Tモールでは次年度以降、集中的な販促活動を行うようになったようです。独身の日が現代のような大規模なキャンペーンとなった要因には、こうした地道なプロモーション活動があったのです。

日付を指定したプロモーションでは、多くの人にイベントを認知してもらい、その日に向けて、顧客の心理を盛り上げていくことが大切ですが、アリババグループは世界中の著名人や中国の人気タレントをイベントホールに招致し、様々な目玉商品を紹介するなど、エンターテインメント性の高いプロモーションを大々的に展開しています。2016年のイベントではベッカム夫妻、2017年のイベントでは、ファレル・ウィリアムスやマリア・シャラポワなどがイベントに参加し、キャンペーンを盛り上げていました。イベントの様子はストリーミングサービス等を通じてリアルタイムに配信されています。

日本や諸外国においても、日付にちなんだプロモーションは様々に行われています。例えば、バレンタインデーは小売業界によるプロモーションによって習慣化されました。いまでは日本におけるチョコレート消費量のうち、二割がこの日に消費されると言われています。アメリカ最大のセールの日は11月の第4金曜日にあるブラックフライデーです。ブラックフライデーは、感謝祭のために用意したプレゼントの売れ残りを店舗が一掃するためのセールを行う日として、1年で最も店舗が賑わうそうです。


中国では、場所に依存しないECサイトの特徴が消費者のニーズに合致していたことに加え、スマートフォンの爆発的な普及によってECサイトに手軽にアクセスしやすい環境が整ったこと、さらに、ECサイトの運営者が流通業も担うことで、配送インフラについても整備されていったことが一大セールの日を形成したといえるでしょう。

一方、ECサイトから発信されたプロモーションがすべて成功しているというわけではありません。中国の各ECモールではブラックフライデーなどのキャンペーンも行っておりますが、現状、独身の日ほどの反響はないようです。独身の日が成功した背景には、「独り身であっても、買い物を楽しもうという」コンセプトが中国の消費者にマッチしたと同時に、そのキャンペーンでの反響を捉え、初年度の0.5億元にも満たなかった頃から継続的な啓蒙活動を行ってきたことが今日の成功につながっているといえます。
小林 淳
株式会社アイディール代表
世界初のモバイルメールのメディア企業、 某大手電機メーカー子会社、CRM系企業の役員を経て、2007年株式会社アイディールを設立。現在は中国に向けた越境ECを中心に、日本のメーカー企業の 中国におけるブランディングやセールスを行っている。
Written by: BAE編集部

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