2022-01-19

ラストワンマイルの救世主「宅配ロボット」。新たな社会のインフラとして役立つ可能性

移動や見守り、コミュニケーションにも活躍
コロナ禍でネットショッピングやフードデリバリーが活況を迎えるなか、実用化が期待される「宅配ロボット」。配達先までの “ラストワンマイル” にかかるコストやスピードといった課題を解決し、よりスムーズで利便性の高い配送を実現するテクノロジーとして注目されています。

さらには、宅配だけでなく、企業とユーザーとのコミュニケーションや、地域の安全面に役立つなど、宅配以外へも活用される可能性も見えてきました。

社会実装への道のりが確かなものとなりつつある2022年は、“宅配ロボット元年”とも言われています。さて、宅配ロボットは、これからの私たちの暮らしをどのようにアップデートしてくれるのでしょうか。ルックスも好評の宅配ロボット「DeliRo®️(デリロ®️)」を開発する、株式会社ZMPの谷口さんにお話を伺います。


世界ではすでに当たり前に活用される宅配ロボット

――物流効率化の担い手として期待される「宅配ロボット」。国内では実証の段階ですが、すでに社会実装が進んでいる国もあるのでしょうか。

例えば、イギリスではStarship Technologies社が、2018年からロンドン近郊の都市ミルトンケインズで、6輪の無人配送ロボットによる宅配サービスに取り組んでいます。 ロボットが単独でスーパーマーケットまで行き、店員が荷物を積み込む。そして、利用者の家の前まで配達し、スマホでボックスを開錠して荷物を受け取る、といった形ですね。ただ、スターシップのロボットは完全自律型ではなく、必要に応じてエストニアのコントロールルームにいるオペレーターが操縦しています。
半径6km以内の地域に、約9kgまでの荷物の運搬が可能。現在はイギリス以外にもアメリカやドイツの都市や、各国の私有地(大学構内など)でも展開され、人気を呼んでいる
※Starship Technologies社 公式サイトより

コロナ禍でのロックダウンや、非接触でのショッピング需要を受けて、利用が急拡大。2021年1月には100万件の配送を達成。さらに数千台の追加稼働が予定されている
※Starship Technologies社 公式サイトより


中国では、EC大手の「京東」による自動走行ロボットが商品の配送を、ドイツでは、人について進む追従型タイプのロボットによる、郵便物配達の実証などが行われています。
国内では、私たちを含む数社が、街中での実証実験を行っている段階です。ただ、屋内や私有地では、宅配ロボットがすでに活躍しています。

例えば、ZMPでは2008年から取り組んできた自動運転技術の研究成果を元に、自律型で自動運転ができる物流支援ロボット「CarriRo®️」等を開発しており、300社以上の倉庫や物流センターで活用されています。 屋外を走る宅配ロボット「DeliRo」も、自動運転・自動走行での運用を目指しています。

「DeliRo」は高さ108.9cm、最高時速は6km。1ボックス、4ボックス、8ボックスのタイプがある。事前に作成したマップデータをもとにルートを設定し、信号や周囲をセンシングすることによって自動運転が可能


ルックスとコミュニケーションが普及のポイント

——国内での宅配ロボットの普及には、どのようなメリットが期待できるでしょうか。

物流現場における人手不足や労働集約性の解消を始め、社会的なメリットは大きいと考えられます。

ご存じの通り、宅配便の配達は体力的な負担の大きい仕事です。配達ルートの設定などについても、配達員の方々の経験や勘に頼る部分は大きく、引継ぎや人材育成の際にかかるコストも課題となっています。宅配ロボットによる自動運転での配達と、AIによるルートの最適化が可能になれば、どちらも効率化を進めることができるでしょう。

また、渋滞の緩和などによる交通環境の向上などにも貢献できることから、物流にまつわる多くの課題を解決するとして、政府でもロボットによる自動配送を国の成長戦略の一つに掲げています。

場所や時間に縛られない24時間体制でのオンデマンド配送が可能になるなど、生活者の側にもメリットがあります。

「DeliRo」による、郵便物の無人配達の実証実験の模様。公道を含む場所で行われる宅配ロボットの実証実験として、国内初の事例。2021年12月〜2022年1月には、ドローンと連携する形での荷物の配達実験も行われた

——郵便物のほか、サービスステーションであるENEOSや宅配代行サービスのエニキャリ、磯丸水産、松屋、ミニストップポケット、ローソン等を始め、様々な企業との宅配実証に取り組まれてきました。宅配ロボットならではの稼働のポイントや可能性などはあるのでしょうか。

フードの注文プラットフォームと連動したデリバリー等にも取り組む。受け渡しも確実でスムーズだと好評。トラブルやクレーム等もなく、順調に実績を積んでいる

コロナ禍の影響もあって、フードデリバリーやスーパーの宅配等のサービスは、都心を中心に普及が急速に進んでいます。ここに自動で動ける宅配ロボットが参入すれば、24時間いつでも配達に対応できるようになるでしょう。

仕組みによっては、企業ごと・店舗ごとに届けるのではなく、宅配リソースをシェアして効率化するなど、より柔軟な対応が可能になると思います。例えば、A社の宅配便を2つ積み込んで出発し、途中のB店でお弁当を2つピックアップしてから、4件の配達先を回る……といった運用が考えられます。

——そのほかに、実証実験の中で見えてきた意外な点や、改善されてきた点などを教えてください。

街中を安全に走行し、配達や受け渡しを確実に行うことが、宅配ロボットの基本です。この点は確実にクリアしてきました。 ただ、実証を繰り返すなかで、宅配ロボットが実社会にうまく溶け込み、役割や価値を発揮するには、もう一つ大事なポイントがあることに気が付きました。“人とロボットの間のコミュニケーション” です。

そこで、我々はデザイン等についても研究を進め、最終的に言葉とアイコンタクトによって、人とコミュニケーションがとれるように「DeliRo」を進化させてきました。

——なぜ、人と宅配ロボットの間にコミュニケーションが必要なのでしょうか。

例えば、「DeliRo」は周辺の動体の様子をセンシングして、人と道を譲りあって歩道を走ります。
その際に、笑顔で「ありがとうございます」とお礼を述べたり、「右へ曲がります」と音声と目線で進む方向を伝えるなど、人に近い形で意思を示すことで、双方がぐっとスムーズに移動できることが分かってきたのです。

また、無人の倉庫などとは違って、街中では「荷物をスムーズに移動させるロボット」というだけでは便利で役立つ存在として認知されにくく、環境や暮らしになかなか馴染めません。
実際に、デザインをリフレッシュして、言葉と目によるコミュニケーションを可能にしてからは、「かわいい!」と声をかけられ、子どもが寄ってくるようになりました。普及には機能性だけではなく、かわいらしさも重要なのです。

「ロボットが走行しています」と周囲に声をかけながら進む。行く手を阻まれた場合などには “泣き顔” になり「すみませんが、道をお譲りください」と訴えることも

特に“目による表現”は大きなポイント。多くの人が意味を直感的に受け取りやすい。意思を伝えるだけではなく、人を楽しませることを目的とした、ユニークな表現も搭載している

さらに、宅配ロボットとして玄関先でユーザーと触れ合うという点においても、見た目やコミュニケーションが重要なポイントになります。

私たちが目指す「DeliRo」の最終的なイメージは、「サザエさん」に登場する酒屋の御用聞きである、 “三河屋のサブちゃん” です。
将来的には、宅配に伺った際に次回の注文を取ったり、別の商品をおすすめしたり、といったやりとりを可能にしたいと考えています。

——親和性やコミュニケーションを軸に、宅配ロボットの役割や価値を広げられるということですね。

その通りです。宅配業者はエンドユーザーと直接会話ができるという貴重な接点を持っていますが、現状ではそれを活かす方法がありません。

Amazonの音声アシスタント「Alexa」には、注文履歴に応じた商品のレコメンド機能などがありますよね。そういった一言を、宅配の際にも伝えられたら、ユーザーとの接点を増やしたり、顧客ロイヤリティを高めたりすることができるはずです。しかも、音声のみではなく、かわいいロボットからすすめられたら、人の側はもっと感情移入できるでしょう。

機能の追加によっては、AIチャットボットなどの搭載によって自動で質問に答えたり、外国語で対応したりすることも可能になると思います。

——AIによる画像診断や顔認証テクノロジーなどを搭載して、機能や利便性を高めることなども可能でしょうか。

はい。個人情報の保護等を確実にする必要がありますが、顔認証などが可能なAIカメラシステムを搭載すれば、属性データなどの取得や、本人確認と連動したキャッシュレス決済、異常検知による健康チェックなども可能になるでしょう。

三河屋のサブちゃんは、注文や配達のために街を周回し、様々なポイントで人や情報にアクセスしています。タラちゃんの帰宅が遅いことを知れば、公園で見かけたことを教えてくれるでしょうし、サザエさんの顔色が悪ければ、大丈夫ですかと声をかけてくれるはずです。
宅配ロボットが宅配先や周囲とコミュニケーションを取りながらデータを収集し、適切にフィードバックできれば、将来的には地域の安心・安全等にも多いに貢献できる可能性がある、ということです。

株式会社ZMP 代表取締役社長 谷口 恒(たにぐち・ひさし)さん


移動するロボットたちを未来の新しいインフラに

——今後、宅配ロボットが実際に広く活用されていくための課題などはあるでしょうか。

例えば、急な道路工事などのイレギュラーなことが起きた場合にルート走行ができない、といったことがあります。自律回避できる方法をいくつか検討していますが、人間が現地を見てルートの設定をし直さなくてはならない場合もあります。将来的には、警察のデータ等とリンクするなどして、解決していきたいと考えています。

また、「DeliRo」は5cm前後の段差を越えられますが、階段の上り下りができません。そこは、「ROBO-HI(ロボハイ)」という、ロボットマネジメントシステムをエレベーターと連携させれば、垂直移動も可能になります。新築マンションやオフィスビルなどから優先的に外部連携機能の工事を進め、なるべくドアのすぐ前まで宅配できるように、エレベーターとロボットの連動機能に関する調整も進めていきたいと考えています。

ちなみに、雨天や強風でも問題なく配達できますが、降雪地帯での走行実験の経験はまだありません。雪の中も走れるように設計していますから、近いうちに雪国におじゃまして走らせたいと思っています。

——今後の目標や展望を教えてください。

宅配ロボットと並行して、同様の技術を活用した「歩行速モビリティ(人の歩く速さで動き回る、一人乗りの自動運転ロボット)」「無人警備・消毒ロボット」などの多様なモビリティロボの開発を手掛けており、こちらもサービス化と社会実装に向けた実証実験に取り組んでいます。

また、それらをクラウドシステムでつなぎ、宅配やデリバリー、MaaS、警備や見守り、また消毒や清掃など、様々なサービスと連携しながら、ロボットを軸とした社会インフラの構築を目指していきます。

「歩行速モビリティ(一人乗りの移動用ロボット)」は、高齢者等の移動のサポート役として期待される
※ RoboTown(ロボタウン)公式サイトより


便利なだけではなく、暮らしのパートナーとして、人と触れ合い、楽しませることができるような魅力あるロボットたちを開発していきたいと思っています。皆さんの街で活躍する日を、楽しみにしていてください。

国内の宅配便需要が増えるなか、実用化に向けた法整備も進む宅配ロボット。具体的な実装が進めば、早朝や夜中に宅配便の再配達を頼んだり、スマホから荷物のピックアップを頼んで、手ぶらで買い物から帰ったりといったことも可能になるでしょう。
また宅配しながら街の見守りをしたり人流データを取得するなど、物流にとどまらないMaaS活用も広がっていきそうです。便利でかわいいロボットたちの実社会での活躍が期待されます。

Written by: BAE編集部

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