2023-07-27

AI、NFT、メタバースなどとエンタメが融合。顧客体験に変化をもたらす

「コンテンツ東京2023」の出展や講演から読み解く潮流
去る6月28日から30日まで、東京ビッグサイトで「コンテンツ東京2023」が開催され、世界中からプロパティやコンテンツが一堂に集まる「ライセンシング・ジャパン」、最先端のソリューション、インタラクティブ技術などが出そろう「先端デジタル・テクノロジー展」をはじめとした複数展示会や、同時開催の「LIVeNT(ライベント)2023」も併せ、エンタメに関連した展示、業界の第一線で活躍する有識者による講演会が数多く開催されました。
電通プロモーションプラスの、エンタメ領域への知見を持つメンバーで構成されたバーチャル組織「エンタの風」に所属する日比野 恵、中尾 美穂が、エンタメ専門チーム視点での会場レポートと、エンタメ・コンテンツ業界の潮流の読み解きを、お届けします。


ライセンスやクリエイティブ・コンテンツの新しい潮流

-アフターコロナの機運で海外コンテンツの出展が増加、ファンアートのグッズ化ができるプラットフォームの台頭も。

国内外のコンテンツが数多く出展する「ライセンシング・ジャパン」では、アフターコロナの機運もあり、海外、特にアジア圏からのキャラクターやライセンスの出展が多くみられました。

息の長いコンテンツでありながら日本キャラクター大賞2023グランプリを受賞したTVアニメ「ONE PIECE」や、国内コンテンツが強い未就学児向けマーケットの中での海外アニメの戦略的なローカライズが評価された「パウ・パトロール」、その他にも「たべっ子どうぶつ」、「クッピーラムネ」といったレトロで懐かしいキャラクターが集結。

日本キャラクター大賞2023の受賞コンテンツ

ソニー・クリエイティブプロダクツが2023年5月にオープンした「MashRoom Cafe」は、クリエイターが、ファンアート(二次創作)のグッズを販売し、ユーザーが購入できるオンラインストア。権利元監修システム、クリエイターへの収益還元システムなどが組み込まれ、企業キャンペーンやコラボレーション施策などへの展開も期待されるプラットフォームで、これまで版権元や一部のデザイナーだけが手がけることができた、グッズ制作の門戸を広げるプラットフォームを、版権元が提供していることが新しい潮流を感じさせます。
 
 

「Mashroom Cafe」のサイト https://mashroomcafe.com/


-製作委員会はもう古い!?世界を巻き込むエンタメ作品の新たなつくり方。


「日本初のエンタメ DAO『SUPER SAPIENSS』が目指すクリエイターエコノミーの形」という講演では、これまで主流だった複数の企業が出資し利益を分配する「製作委員会方式」に替わり、DAO(分散型自律組織)の運営のもと、クリエイター・演者・ファンがトークン(二次流通通貨)を購入することで投票権を得て、エンタメづくりに参加することができるシステムの構想について語られていました。

 
 

DAOの運営によるエンタメ制作の仕組み(出典:PR TIMES 株式会社フィナンシェのプレスリリースより


一般の方からの出資と聞くと、クラウドファンディングをイメージされるかと思いますが、トークンを介することで価値変動が起きること、そして保有する権利を得られるということが、1 回の出資&リターンで完結するクラウドファンディングとの大きな違いです。出資者が増えれば増えるほどトークンの価値は上がり、売買も可能なシステムになっており、出資はオンライン上で可能なため日本国内だけではなく世界中から出資者を募ることも、そしてメディアを介して世界中に作品を発表していくことも可能です。

当社でも関わっている、サウジアラビアで開催されたサウジアニメエキスポやジャパンアニメタウンの盛況ぶりでも明らかなように、日本のアニメコンテンツはすでに世界中の人に愛され、グローバルの域に達しています。そのためアニメ制作では最初から海外に目を向けた形での作り方・売り方が主流になってきていますが、アニメ以外のエンタメ作品も、「制作体制」や「売り方」を工夫すれば、世界に飛び出していける可能性が大いにあると考えられます。


メタバース関連技術の実用化。eスポーツへの企業の関わり方が変化

-技術の進歩により、XRが生活者の身近な存在に。

アバター接客×AI、VR×災害体験、AR×カスタマーサポートなど、あらゆる分野でXR活用がより実践的に落とし込まれてきています。
技術面での精度が向上し、特に高精度なトラッキング技術を活用したアバターコミュニケーションに関して、企業活動に取り入れることが現実的になっていると感じました。

モーションキャプチャ系のデモ展示を行う企業も数多く出展していましたが、高精細なフルトラッキングスーツやフェイシャルキャプションシステムの実演が各所で行われていた他、CES 2023でイノベーションアワードを受賞したDiver-Xのハンドトラッキングのグローブが多くの体験希望者を集めていました。

モーションキャプチャのデモ展示を行う 左/アーカイブティップス(株)のブース  右/(株)スパイスのブース

CES 2023のイノベーションアワードを受賞、Diver-Xのハンドトラッキングのグローブ

また、企業や商品とファンとをつなげて育てるソリューションが目立ちました。リモート接客を可能にして体験価値を高める「アバター」、買い物体験にワクワクを付与する「AR/MR体験」、顧客への新しい体験価値を提供する「NFT」などを提供する企業が多くみられました。
当社でもNFTのソリューションは手がけていますが、従来デジタルマーケティングを提供してきた企業が、新たに顧客向けのNFT活用システムを導入し、そのシステムを利用したイベント・企画の実施をサポートするサービスを立ち上げ、出展しているブースも複数見られました。

アバターとChatGPTを繋ぎ接客などへの活用を可能とする、Gatebox(株)の展示

-e スポーツの定着と、プロモーションへの活用の広がり。


同時開催の、ライブやイベントなどに関連した企業が多く出展する「LIVeNT(ライベント)2023」にコーナーが設けられていたeスポーツに関しては、特に大手企業で認知獲得や新規顧客開拓よりも安定運用を重視するフェーズにあり、市場における立ち位置が変化していると感じました。

2015年にeスポーツに参入し、eスポーツの代表格である「RAGE」を運営する株式会社CyberZの講演では、2022年のイベントを開催した際の「協賛企業が過去最多の17社」「ファン層の7割がZ世代」「男女比は7:3、かつては1割未満だった女性ファンが急増」「選手やストリーマー(動画配信者)に対する推し活文脈の広がり」といったeスポーツ市場の定着・活況を感じさせるキーワードが飛び出しました。

CyberZが主催する「RAGE VALORANT 2022」では、若年層や女性ファンを中心に応援する選手、ストリーマーの推し活グッズの持参が目立った(出展:Game Watch「RAGE VALORANT 2022 Spring」イベントレポート


実際にeスポーツのプロモーション活用は広がっており、ノーベル製菓では、若年層への認知と接触機会づくりを目的にeスポーツイベントに協賛、来場者への商品サンプリングを実施しています。さらに、ウォッチパーティー(※eスポーツを仲間と観戦する、新しいパブリックビューイングの文化)企画内でプロダクトプレイスメントを行い、出演するストリーマーが実食する様子が配信されたことで反響を呼び、海外の有名ストリーマーも反応するなど話題になりました。

冷凍弁当の製造・販売を行うnoshでは、eスポーツキャスターが番組内でゲーム用語を交えた食レポをする協賛企画がファンの心をつかみ、人気企画に。他施策と比べて、成約数の大幅な伸びが見られたとのことです。

メタバース/XR、NFT、eスポーツ、どれも若者向けのテクノロジーや新しい文化のように受け取られがちですが、技術の進歩や産業への応用が進み徐々に根付いてきたことで、幅広い世代に受け入れられる土壌が育ちつつあると感じました。アバターを介したコミュニケーションや同時視聴など、新しいコミュニケーションのあり方をどうビジネスに生かしていけるかという、示唆に富んだものが多くありました。


生成AIの、クリエイティブ領域やマーケティングへの活用

-生成AIの台頭により注目度が上昇し、複数のカンファレンスが開催。

今年の「コンテンツ東京」の特長として、生成AIをテーマにした、複数のカンファレンスが開催されたことが挙げられます。

「生成AIで変わるコンテンツ制作とクリエイティブ」という講演では、noteのプロデューサー徳力 基彦氏ファシリテートのもと、同社のCXO深津 貴之氏とStability AI Japanのジェリー・チー氏という、国内の生成AIにおけるトップランナーの二人が、今起こっていること、今後起こり得る変化について語りました。

左/「生成AIで変わるコンテンツ制作とクリエイティブ」の講演風景 右/生成AIが制作したデザインの一例

深津氏は、生成AIが登場したことによる大きな変化として従来は専門家により専門用語で行われていたAIへの命令が一般的な言葉で可能となったこと、また、従来はひとつのAIがこなす仕事の領域が一種類だったが複合的に変化した、ということを挙げていました。

また、クリエイターの心構えとして、「創作することをやめてはいけない。AIに仕事を任せることで、人間はよりクリエイティブなところに関わり、面白いことを生み出すことを目指すべきだ」と、強調していました。

これまでのAIと、生成AIの普及による変化(講演内容をもとに編集部で作成)

これから起こる変化についても、深津氏は、「AIにより、業界全体のクリエイティブがよりハイクオリティになるので、“人”もハイクオリティにならなければならない。受け手の消費量は変わらないので、質の低いクリエイティブは淘汰される。」と警鐘を鳴らしました。
また、チー氏も、「どうキュレーションするか、どうプロデュースするかが、人間の役割としては重要。人間が磨くべきは適応能力である。」と、講演を締めくくりました。

我々が手がける領域に照らしあわせてもAIを使いこなすことで業務を効率化し、作りだした時間をうまく活用して、人にしかできない仕事を見つけ、クリエイティビティを進歩させていくことが求められると強く感じました。
ライセンスから先端技術まで、コンテンツやエンタメに関わる企業や展示が一同に会した「コンテンツ東京」期間中の東京ビッグサイト。コンテンツ・エンタメ業界のみならずマーケティング全般に言えることですが、多様化する顧客ニーズに対応し、提供側も変化していることを感じました。ファンアートのグッズ化のプラットフォームを大手ライセンサー企業が手がけるようになったことや、eスポーツのプロモーション活用が進んできたこともその一例と言えるでしょう。

また数年前は技術のデモ展示が中心だったAR/VRやメタバース関連などの先端テクノロジーや、昨年から今年にかけ一般向けに認知度が高まったNFTや生成AIに関しては、実際のサービスに落とし込まれいよいよ実用化されていくフェーズとなってきました。NFTに関しては、当社でもNFTを活用したキャンペーン施策や、NFT関連ソリューションの開発を進めており、より幅広い領域での活用を推進していきます。

私たちエンタの風チームは、今後もエンタメ領域の新潮流や、マーケティング領域全般への各種先端技術の活用について、注目していきます。


日比野 恵
株式会社電通プロモーションプラス
デジタルエクスペリエンス事業部 アニメビジネス推進部/「エンタの風」所属
新卒入社後、販促プロデュース業務を経て2015年よりコンテンツビジネスに従事。 電通グループのタイアップキャンペーン監修・プロデュースや、物販催事ディレクション業務などに携わる。

中尾 美穂
株式会社電通プロモーションプラス
第3プロデュース事業部 プロデュース10部/「エンタの風」所属
新卒入社後、販促物制作・デジタル制作の部署を経験した後、2017年よりコンテンツビジネスに従事。電通出資作品の製作委員会業務や、タイアップキャンペーンの監修・プロデュース業務に携わる。
2019年・2022年には中東で初となるジャパンアニメ大型イベントであるサウジアニメエキスポおよびジャパンアニメタウンの出展社営業担当として、各IPホルダーとの交渉および制作プロデュースを担務。


Written by: BAE編集部

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