2020-12-23

世代・トレンド評論家 牛窪恵さんに聞く「Z世代の消費行動と特徴」

2021年も注目のZ世代。これまでの世代と異なる「視点」
1990年代中盤〜2000年代序盤に生まれた世代「Z世代」(主に10代後半〜20代前半)は、これからの消費を担っていく世代として、世界的に注目を集めています。

2019年には、世界の人口におけるZ世代の割合は32%に達しています。一方で、日本は少子化社会。「それでもZ世代の持つ影響力を考慮すれば、彼らが消費をリードしていくことは変わらない」と、“草食系男子”を広く発信したことでも知られる、世代・トレンド評論家の牛窪恵さんは語ります。

「Z世代の消費行動と特徴」をテーマに、電通テック +tech labo(プラステックラボ)研究員の堀かおりがお話を伺いました。

※2022年4月より電通テックから電通プロモーションプラスへ社名変更しました。


Z世代の物事の判断基準は「コスパ」

――私は現在、"Z世代"を軸とした開発業務を行っています。その中でも、今世界的にも拡大しているメンズ向けビューティー市場に注目しています。Z世代の方々と関わりながら、Boys BeautyというテーマでInstagramやYoutubeの企画運営、イベント実施や企業プロモーションのお手伝いなどをしているのですが、彼らの価値観や物の見方はこれまでの世代とは異なる印象を持っています。牛窪さんはどのように感じていますか?

左:InstagramアカウントBoys Beauty(@boysbeauty_jp) 右:2019年開催メンズメイクのタッチ&トライイベントの様子リッチテキストを入力してください


牛窪――私は2006年頃から「若者研究」をしているのですが、Z世代の若者たちは行動より“リスクヘッジ”が先にありますよね。なぜそれがわかったかというと、アルコールメーカーの方から「なぜ若者はビールを飲まないのか?」という調査依頼を受けたからです。調べてみると、十人以上の若者から「ビールって、飲んでナンになるんスか?」との声が聞こえてきました。つまり、飲んだ先に何があるか、その「結果」を飲む前から考えていたんです。

――彼らは合理性で物事を捉えていますよね。

牛窪――そうなんです。もし酔っ払って終電を逃せば、タクシー代がかかるし、翌日のパフォーマンスにも影響が出るかもしれない。そうしたリスクを先に考えて、行動(飲酒)を控える傾向にあるんですよね。

左:世代・トレンド評論家の⽜窪恵さん 右:「若者たちのニューノーマルZ世代、コロナ禍を⽣きる」(⽇経プレミアシリーズ)

――そもそも、これまであった「お酒=楽しい」という概念に対して、彼らは疑問を覚えているわけですね。

牛窪――ええ。2008年に私は『草食系男子「お嬢マン」が日本を変える』という著書を発売し、大きな反響を呼びました。あれから12年。「草食系男子」も合理主義で、消費に関しては節約思考、自制思考でしたが、それより下の「ミレニアル世代」(1981年〜1990年代中盤に生まれた世代)に関しては、“コスパ”の意識が顕著でした。費用対効果、つまり「結果(効果)」をより強く意識しているのです。

ミレニアル世代は消費の場で、将来的に値崩れしないものを選び、買う瞬間から「売る」ことを意識しています。今ではなく、未来を見て買い物をしている。非常に慎重で、ベストタイミングでないと、大きな買い物はしない。一方で、細かい「ちょこちょこ買い」は躊躇なくしています。同様に、Z世代も“コスパ”への意識は高く、Googleではなく、SNSのハッシュタグで情報検索をして、口コミをもとに物を買うなど、堅実で“時短”な消費行動が見て取れます。

昨今「若い人(Z世代)は物を買わない」と言われますが、実はそうではありません。堅実ではありますが、周りへの影響も含め、価値があると思ったものに対しては積極的にお金を使う。この辺りは、近著『若者たちのニューノーマル~Z世代、コロナ禍を生きる』にも詳しく書きましたが、彼らを“若い(Z世代およびミレニアル世代)”と、ひと括りにするのではなく、世代や生活価値観ごとに見ていくことも大切だと感じています。

――世代ごとの違いはあるものの、コストパフォーマンスへの意識が高いという点では、ミレニアル世代から変わってきた消費の潮流なんですね。私もZ世代の若者から話を聞く機会は多いのですが、洋服はGUだけど、趣味には際限なくお金を使ったりするなど、ある意味で極端。テレビを見ない理由も、「好きなタイミングで見られないからコスパ(ユーザビリティ)が悪い」なんて声も聞きます。

ちなみに、株式会社Questの提携する調査会社モニターを利用したインターネット調査・分析によれば、「Z世代のなかでも、若い世代ほど動画に多くの時間を割いている」というデータもあります。でも、テレビを見ない。

【アンケート】YouTube動画を視聴する頻度はどのくらいですか? 
出典:調査会社モニターを利用したインターネット調査・分析


牛窪
――彼らは「何かを待つ」のがストレスだと感じています。いつでもどこでもスマホで動画を見る習慣がある彼らからすると、家で、しかもテレビの近くに行かないと見られないテレビ番組はストレス、ということになるわけです。スマホの持つ“フレキシビリティ”が彼らの当たり前であって、それを持ち合わせないものはすべて「不便」に思えてしまうというのは、ひとつ上の世代の人間からすれば、驚きでしかないのではないでしょうか。

――これまでの世代が“当たり前”だと思っていたことに、彼らはさまざまな観点から疑問を感じていますよね。

牛窪――はい。特に重視しているのが「リスク」や「コスパ」。だから恋愛についても、多くのお金と時間を使うのに“割に合わない”と感じている。一歩間違えれば、相手がストーカーになるリスクだってそこにはあるのだから、ゆるくつながっているくらいが丁度いいと思っていますよね。添い寝するだけの友だち「ソフレ」という関係があるのも、彼らの世代ならではでしょう。

――かといって、恋愛に憧れがないわけでもないんですよね。「恋愛リアリティショー」的な動画はよく見ていますし。ただ、彼らはやりたいことが多過ぎるんです。そのために、時間の使い方を最適化すべく、コンテンツで恋愛欲求を満たしていたりするのかなと感じています。


コロナによって高まった「オンラインニーズ」に小売はいかに応えるかが今後のカギとなる

――2020年は「コロナ」なしには語れないと思います。コロナとZ世代という観点で感じていることはありますか?

牛窪――2020年、Z世代の心を掴んだコンテンツは、ゲーム『あつまれ どうぶつの森』とアニメ『鬼滅の刃』です。『あつまれ どうぶつの森』は、コロナによって高まった“つながるニーズ”に応えてくれた点が大きかったですよね。ゲームを通じて、コミュニケーションすることで、その気持ちを満たしているところがあったように思います。私は立教大学大学院で授業を持っているのですが、立教大学のほうの学生たちも、外出自粛の最中、「つながり」を強く求めていた印象があります。

――コロナによって広がった「非接触」については、いかがですか?

牛窪――キャッシュレスサービスの利用が増えました。SuicaなどのICカードはもちろん、スマホでの支払いが増えた様子も、複数のデータから明らかです。EC利用も、人口全体の5割超まで伸びました。

――以前からEC市場の拡大は注目されていましたが、コロナで一気に加速した感があります。

牛窪――はい。コロナ禍で取材した伊勢丹新宿店も、いち早くオンライン接客に取り組み、「数年後に、店頭の全商品をアプリで買えるようにする」と宣言しました。他社にも追随する動きが見られます。これまではウェブで見て、リアル店舗で確認して買うという「ウェブルーミング買い」が全世代に見られましたが、今後はオンラインだけで完結する流れ、ニーズが加速すると考えています。

伊勢丹新宿店では今年、トライアルとして、zoomによるオンライン接客でランドセルを顧客に案内した

――外出自粛を受け、アパレル関係のSNSアカウントでは店員さんによるライブ配信が増えるなど、小売全体の流れとして、オンラインコミュニケーションを加速させる流れはありますよね。オンライン接客もそのひとつだと思います。

牛窪――しかし、ここまで急速にデジタルの波が押し寄せることを誰も予想していませんでしたから、
その対応は容易ではないと思います。とくに日本企業には「組織構造の問題(分野別予算管理など)」や、高度な「おもてなし」の意識がある。ショップ店員がオンラインで「在庫あります」と発信して、来店してみて売り切れていたらクレームになるかもしれないと考え、「部署間の情報共有や社員教育が徹底しないうちは、まだオンライン接客は無理」と尻込みしていた企業も、少なくありませんでした。

――OMO時代が本格到来した以上、オンラインをいかに活用できるかは、非常に重要なフェーズに入っていますよね。

牛窪――そうですね。中国では、新作を入荷したら、ショップ店員が動画で紹介するという流れが定着しつつありますが、やっぱり店員さんの説明がいちばん伝わりやすいと私は思います。リアルとバーチャルが、シームレスかつリアルタイムでつながることで、確実に相乗効果は上がりますよね。

――いわゆる「百貨店離れ」を食い止められるかどうかも、オンラインが鍵になりそうですね。私は百貨店大好きですけど、Z世代の若者たちからは「行かない」という声も聞きます。これも世代間ギャップといえそうです。

牛窪――バブル世代(おもに現50代)の青春時代まで、欧米や百貨店は憧れの的でした。しかしバブル崩壊後、雇用は不安定になり、給与も下がったことで、ミレニアル世代の「節約思考」やZ世代の「コスパ重視」という価値観が広く浸透しました。ブランドものへの捉え方も、バブル世代とZ世代では、まるで違う。バブル世代が「ステータス」として持っていたブランドを、Z世代は「本当に自分や社会に必要なものかどうか」で見ています。

――デジタルネイティブの世代は、ネットで情報がいくらでも拾えますから、選択肢が多いことも、ブランドにこだわらなくなった理由のひとつのような気がします。

牛窪――そうですね。そのなかで、Z世代の若者たちは「サステナビリティ(SDGs)」や「社会貢献」への意識が高く、「自分もしくは社会にとっていいもの」を好む傾向があります。一方で、形のないデジタルが当たり前になった反動で、形のあるものを求める嗜好も見られます。若者がレコードを買ったり、わざわざチェキで写真を撮って、余白に「大好き」などと手書きしたりするのは、まさにその象徴ともいえるでしょう。

――サステナビリティの視点は、消費行動にもさまざまな面で影響していそうですね。

牛窪――フードロス(食品廃棄)をはじめ、ゴミを出すことへの罪悪感を覚えていますよね。だから「無駄な洋服を買うことも罪」だと思っている。洋服の定額レンタルサービスが流行っているのも、そうした気持ちも関係しているように思います。

――借りてしまえば、捨てることもないですし、定額だからコスパもいい。まさにZ世代のインサイトを捉えたサービスですよね。今後この視点は、マーケティングの分野でも重視されることになりそうです。


リアルの価値は残したまま、高まる「オンラインの価値」

――オンラインが加速する一方で、リアルの価値も変わりつつあると思います。下がったのではなく、むしろ高まったのではないでしょうか。

牛窪――オンライン上でも、会話や旅気分は楽しめますが、旅先で枕投げをする、なんてことはできません。やっぱりオンラインには限界がありますから、リアルの価値が失われる、ということは考えにくいと思っています。ただ、オンラインだからできることの“発見”も、今回のコロナは多かったように感じています。

――嵐のライブ「アラフェス2020 at 国立競技場」は、オンライン開催となったことで、定員がなくなり、本来であれば収容できないようなユーザーが視聴したといいますし、オンラインイベントのポテンシャルを示した形になりましたよね。

牛窪――結局コロナ禍では、ライブ会場に行けても、大きな声で声援を送ることができない。ところが、自宅で声援代わりにスマホを振れば、その様子が会場に反映されるなど、オンラインとリアルをつなぐ仕掛けが生まれました。「オンラインでも楽しい」がさまざまな形で誕生したこともよかったですよね。ちなみに今年、3密を避けるために実施された「バーチャル渋谷 au 5G ハロウィーンフェス」も、バーチャル空間上で世界から約40万人が参加したそうです。
 

バーチャル渋谷 au 5G ハロウィーンフェス

――すごいですね。Z世代の若者は「新しいもの」への抵抗感がないから、すぐにトライしてくれる。オンライン活用に関しても柔軟に対応しているし、彼らが消費の中心といわれる理由もその辺りにある気がします。

牛窪――日本は少子化ですが、SNS世代であるZ世代には拡散力があります。彼らの発信から流行が生まれる以上、彼らが消費のリーダー的存在であることは揺るぎない事実でしょう。また、コロナ禍のなかで、Z世代が親に「Zoomの使い方をレクチャー」したケースが多くあったように、“Z世代発”は、幅広い世代に伝播します。こうやって、オンライン活用は世代に関係なく、着実に利用が広がっていくのだと思います。

――人口比率としてはシニアの方が多いとしても、無視してしまっては、ムーブメントは作れないですよね。

牛窪――そうですね。さまざまな形で広がりつつあるオンラインイベントも、ECともシームレスに連動できますから、「オンラインでつながる楽しさ」を最初に見いだすのはきっと、Z世代の若者たちなのではないでしょうか。ファッションショーでは、モデルが着用している服が画面上をクリックするだけで自宅で購入できたり、コンサートなら、クリックひとつで自室でグッズを買えたりするなど、上手に設計すれば、オンラインイベントにおける課題「マネタイズ」も解決されていくのではないかと思っています。

なぜなら、購入後に商品を持って帰る手間もない。利便性だけなら、圧倒的にECに分があるからです。オンラインイベントにおけるグッズ販売にはまだまだ改善の余地があると思いますが、それはそのまま“伸びしろ”といえるのではないでしょうか。


――オンライン活用は、今後もさまざまな形で継続しそうですよね。

牛窪――はい。もちろん企業や職種にもよりますが、若者たちの間では「テレワークができない会社には就職したくない」という層も多くいます。政府はコロナ前から、「2025年問題(親を看ながら働く介護需要のピーク)」を意識して「テレワーク」の導入を声高に訴えており、テレワークがなくなることはコロナ後もあり得ません。同様に、仕事と休暇を両立する「ワーケーション」も、政府が推進する施策です。どちらも、“柔軟な働き方”という点においては、若者たちが求める部分と重なるのではないでしょうか。


2021年のキーワードは、人や世界との「つながり」

――コロナによって、さまざまなことが変わりましたが、これを一過性のものと捉えるかどうかという問題があると思います。牛窪さんは「2021年の消費傾向」をどのように分析していますか?

牛窪――東京オリンピックについては、未だ開催についての議論が続いていますが、2021年、もし開催されれば、大きな話題になることは間違いないですよね。そのなかでまた、私たちは「つながる大切さ」を再認識し、「日本全国や世界とつながりたい」という気持ちが高まるのではないでしょうか。特に私は、「家族のつながり」を感じられるようなツールやサービスのニーズが高まるのではないかと考えています。

販売戦略の部分では、たとえコロナが収束しても、2021年秋にデジタル庁が新設されますし、オムニチャネルの重要性は変わらないでしょう。ライブ配信やライブコマースを活用して、リアルとオンラインをいかにシームレスにつなげるか。そのためには、部署を超えた全社的に連携や、顧客情報の共有・分析が不可欠といえます。

そして最後に、消費のリーダー的存在である「Z世代」に言及すると、企業は今後、彼らの多様性をコミュニティとして捉え、フォロワー数よりも“信頼性”を重視するSNS世代の彼らの心をいかに掴むかが重要になるでしょう。そのためには、一発信者である企業も、信頼される存在になることが不可欠です。それはサステナビリティに対する意識の高い彼らに向けたSDGsへの取り組みかもしれませんし、違うファクターかもしれません。企業として、消費者との向き合い方がより重視される時代に入っていくことは間違いないと感じています。

――牛窪さんとお話しをして、Z世代は上の世代と異なる特性が多くある、ということを再認識しました。彼らが今後社会に出たとき、「コスパの悪い」習慣やサービスが淘汰されていくのは明白です。手遅れになる前に、企業側は今のうちから未来に向けた準備を進め、改善していく必要があるのではないかと思いました。本日はありがとうございました。

 

牛窪 恵(うしくぼ めぐみ)
世代・トレンド評論家/立教大学大学院(MBA)客員教授
財務省 財政制度等審議会専門委員、内閣府「経済財政諮問会議」政策コメンテーターなど、政府委員を歴任。2020年より、日経広告賞審査委員(日経MJ広告賞審査委員も継続)。トレンド、マーケティング関連の著書多数。「おひとりさま(マーケット)」(05年)、「草食系(男子)」(09年)は、新語・流行語大賞に最終ノミネート。テレビ番組のレギュラー出演多数。近著に『若者たちのニューノーマル〜Z世代、コロナ禍を生きる(日経プレミアシリーズ)』がある。

堀 かおり(ほり かおり)
株式会社電通テック +tech labo研究員
2014年電通テック入社。店舗運営や外資系企業のプロモーションに携わる。2018年5月より未来志向の開発型組織+tech laboの研究員となり、Z世代とSNSをテーマとして日々開発業務を行う。2018年末よりZ世代男子の美容に対する意識の高さに注目しており、彼らに向けて美容情報を発信するInstagramアカウントBoys Beauty(@boysbeauty_jp)をLIDDELL株式会社と共同で運用している。

Written by: BAE編集部

CONTACT

お問い合わせ

お問い合わせ

お仕事のご相談やその他お問い合わせはこちら

資料ダウンロード

電通プロモーションプラスのソリューション資料一覧はこちら
page_top