2020-01-31

現代ユーザーに刺さる「動画コンテンツ」とは?

日本型リテールメディアの理想像と、今後取り組むべき戦略とは
Instagramのストーリーズ、TikTokなど、誰でも簡単に投稿できる短尺動画が若者を中心に2018年から2019年にかけて浸透しました。ユーザーは短尺動画をどう捉え、自分の生活の中に取り入れているのでしょうか。一方、企業側は長尺動画とのすみ分けをどう捉えるべきなのか。これからのコンテンツの在り方について、広告やSNSなどのコンテンツ制作で活躍するクリエーター4人による座談会を実施しました。

参加したのは、株式会社ツートン アートディレクター/代表取締役 茂出木 龍太さん、映像を軸にミュージックビデオやボードゲームなど、幅広いコンテンツの企画・制作を手掛けるCHOCOLATE Inc.(以下、チョコレイト)のクリエーター 島村ビギさんと、あさぎーにょさん、株式会社電通テック クリエーティブディレクター/アートディレクター 隈部 浩、それぞれの立場から「動画」をテーマに意見を交わしました。

※2022年4月より電通テックから電通プロモーションプラスへ社名変更しました。


世代ごとに違う「動画との距離感」

(後方・左)株式会社ツートン アートディレクター/代表取締役 茂出木 龍太
(後方・右)株式会社電通テック クリエーティブディレクター/アートディレクター 隈部 浩
(前方・左)CHOCOLATE Inc. プランナー 島村ビギ
(前方・右)CHOCOLATE Inc. プランナー あさぎーにょ

隈部――あさぎーにょさんはYouTubeやTikTok上で、島村さんは店長を務める「6秒商店」のTwitter上で公開した動画でヒットを生み出していますよね。おふたりは、現代ユーザーの「動画との距離間」について、どのように捉えていますか?

あさぎーにょ――TikTokについては、私自身もよく閲覧しています。YouTubeもすごく見ていて、メイク中もずっと流しています。とにかくずっと動画を見ているので、電車内で充電切れたら、本当にパニックになってしまいます(笑)。私も含め、若い子たちにとっての動画は、情報収集やコミュニケーション面で切っても切り離せないものになっているのではないでしょうか。

島村――僕も電車では、常にスマホを開いています。最近はNetflixを見ていることが多いです。それが日々のルーティンになっているので、「充電が切れたら困る」という気持ちは、すごくわかります(笑)


茂出木――仕事のときはどうですか?企画を考えるときとか。

島村――アイデアを考える際は、YouTubeやTwitterのアプリを常に開いています。

茂出木――器用ですね(笑)。私はやはり、集中したいときは、静かな環境を求めてしまいます。

島村――それくらい“スマホが側にあること”が当たり前になっているのかなと思います。考えごとをするのに、邪魔だと感じたことがないですし、むしろそうした情報の中からアイデアが生まれることもあります。

隈部――自分も静かな方が集中できますね。ただ、情報収集のときは、動画を1.5倍速で再生しながらチェックすることもあります。

あさぎーにょ――私の場合は、YouTubeも情報収集というより娯楽の一種。SNSを見るような感覚で、ユーチューバーさんの動画を見ていることが多いです。

隈部――「動画」とひと口に言っても、世代によって、使い方も距離感もまるで違いますよね。若年層のユーザーに至っては、写真も動画も区別なく、“コンテンツ”という括りで捉えている印象すらあります。

あさぎーにょ――そうですね。あまり深く意識はしていないと思います。

茂出木――私が主に関わるのは、長尺の動画です。短尺動画はSNSなどを介して出会うことが多く、“受動的”に遭遇するケースが多いと思いますが、長尺の動画というのは、ユーザー自ら情報を求め、閲覧する傾向にあります。じっくりと動画を見ますから、ブランドの世界に浸かり、しっかり好きになってくれる。そうした違いが、短尺動画は認知向上に、長尺動画は好感度向上に適しているといわれる理由でしょう。ですから、“流行っているから”短尺動画を選ぶのではなく、目的に応じて使い分けることが重要だと感じています。

投稿動画を見ているユーザーは、コンテンツの質より、人柄を見ている

隈部――あさぎーにょさんがTikTokに投稿した動画「投げキッス運動」は、1億5000万回以上再生されています。いま振り返ってみて、どうしてそんなにバズったのだと思いますか?


あさぎーにょ――私自身に「動画をバズらせてやろう」という気持ちはなくて、みんなが楽しめるような振り付けで、喜んでくれればいいなと思って作りました。そういった「私が純粋に楽しんで作っている姿」がみんなの共感につながったのかもしれません。感覚や空気感を、コンテンツを通じて共有しているというか。

隈部――狙っていないからこそ、受け入れやすかったのかもしれないですね。

茂出木――TikTokに上がっている動画はどれも、「ナチュラルで嘘がない」。それも魅力のひとつなんでしょうね。

島村――そうだと思います。ユーチューバーの動画も、“その人の素を楽しむ”というところがあって、ときにはピントすら合ってない動画がアップされていることもありますが、それでもその人の人柄とか想いにひかれてファンが増えていく。


あさぎーにょ――実際、TikTokでアップした動画についたコメントを見ていると、「もっと素(日常)が見たい」という投稿は多いです。ただ、その延長に「投げキッス運動」の成功があるかというと、それは不明なんです。ちょっと目を離した隙に、気づいたときには、すごい再生回数になっていました。

島村――TikTokのアルゴリズムで、人気の動画は多くのユーザーにレコメンドされるようになっていますよね。当初フォロワー間で人気になったことで、そこからアルゴリズムによって拡散し、“人気が人気を呼んだ”のだと思います。

あさぎーにょ――いまは誰でもクリエーターになれるし、誰でも人気者になれる可能性がある時代です。若い子たちにTikTokが支持されている理由には、自撮り文化との相性の良さもあると思います。

島村――「15秒動画」という敷居の低さも人気を後押ししていますよね。もしこれが5分なら長いですし、ハードルが高いと感じるユーザーもいるでしょうが、「15秒なら私もできそう」と思える。設計が上手い。


SNS時代のキーワードは、「共感」と「驚嘆」

隈部――TikTokやYouTubeは、投稿者とユーザーが感覚や空気感を共有する場所でもありますよね。そうした連帯感やコミュニケーションは、広告的な文脈においても重要視されています。企業が作り込んだものよりも“身近な人からのレコメンドの方が届く”。今までと広告のアプローチが変わってきています。

島村――だからこそ余計に、インフルエンサーマーケティングにおいては、人選が重要になっていると思います。フォロワーの数ではなく、その人のパーソナリティとブランドや施策がマッチしていることの方が結果に影響しますよね。

茂出木――それは、あさぎーにょさんのミュージックビデオで制作・着用した衣装のパジャマが即完売した、というエピソードにも似たようなものを感じます。

あさぎーにょ――「共感が購買につながった」という点では、構造は似ていると思います。ただ、私個人としては、物販で稼ぎたいと思ったわけではなく、ファンの人たちとのコミュニケーションのためにしたこと。そもそもは、楽曲がほしいという要望があったんですが、あまり前向きにはなれませんでした。そこで、ミュージックビデオを使ったコミュニケーションを考えました。それが衣装のパジャマを制作・販売し、そこにQRコードを同封し、楽曲を収録するという手法だったんです。

2018年7月、自身の楽曲「Kitai」を収録したオリジナルQRパジャマを販売したところ、わずか30秒で完売した

隈部――モノを作ること=コミュニケーションというのは、その過程を見せるからですか?

あさぎーにょ――はい。都度、SNS上で進捗状況を発信し、ファンの子からのアドバイスも取り入れながら一緒に作っています。一種、共同作業のような感覚もあります。

島村――インタラクティブであることはもはや当たり前の時代ですから、その上で、どうユーザーとコミュニケーションするかが重要になっていますよね。

あさぎーにょ――そうですね。私個人としては、“親近感”や“参加している感”はとても大切にしています。

隈部――島村さんは、Twitter上で「6秒商店」と題して、プロトタイプの商品動画を投稿し、人気を呼んでいますよね。短い動画を作成する上で、重視していることはありますか?

島村――よくコンテンツは「共感と驚嘆が大事」だといわれますが、短い時間であればこそ、ユーザーのハートをつかむためには“驚嘆”の比率を上げなくてはいけないと思っています。6秒商店で多く再生されている「魔法陣充電器」も冒頭から魔方陣のビジュアルを見せ、「おひとりさまたこ焼き器」も小さすぎるたこ焼き器のフォルムを一目でわかるようにすることで、アイキャッチ的な強さを意識しています。ユーザーがTwitter上でスクロールするスピードを考えると、見てもらえる時間は0.5秒もないと思うんです。そのなかで、いかに目を留めてもらうかが重要だと感じています。

隈部――そのために、具体的にしていることは?

島村――違和感をいかに作るかですね。たとえば「魔法陣充電器」なら、アニメの世界でしか見たことのないものが現実世界に存在するという違和感。「おひとりさまたこ焼き器」であれば、みんなで作るたこ焼きの穴が1つしかないという違和感です。短尺動画は、ブランドや商品の認知向上に適したコンテンツだと思います。その効果を最大限に発揮するためには、視聴完了率の高い短尺動画の“読後感をどう作るか”が重要なポイントになると考えています。

茂出木――ちなみにその“違和感”は、Twitter以外のプラットフォームでも通用すると思いますか?

島村――プラットフォームによって反応は異なってくると思います。実は、TikTokやInstagramに投稿してみたこともあるのですが、あまりユーザーの反応はよくありませんでした。これはプラットフォームによって、ユーザーの目的が違うからです。Twitterには、ネタ的なものを楽しむ風土がありますから、その文化に6秒商店はうまくハマったのだろうと分析しています。


「体験」は人間の本質。その価値をいかに活用するか

隈部――コンテンツの人気度が「数字で見える」ようになったことで、在り方を含め、さまざまなことが変化しました。しかし、それでも「何を大切にするか」というコンテンツ作りにおける根幹は、変えてはいけないと個人的には考えています。そうでないと、コンテンツの芯がブレてしまいますから。


島村――その点は僕も同じ意見です。個人的にはいま、コンテンツの中でも特に「体験が生み出す効果」に注目しています。テキストの記憶定着率は10%ほど、動画だと20%ほどだといわれているのですが、「体験した場合」はもっと高くなると僕は考えているんです。

茂出木――その通りだと思います。いまや当たり前となったオンラインストアですが、そこに頼りすぎてしまうと、売り上げが落ちてしまうことがあるんです。なぜなら、オンラインストアでは、リアル店舗のような「体験」や「感動」が希薄だからです。「触れて好きになる」という身体性を伴った経験の積み重ねがファンを生み出しますし、売り上げの安定にもつながるんです。最近は、そのバランスを保てるような、オンラインとリアルをうまくつなげる仕組み作りができたらと考えています。

隈部――電通テックとしても、プロモーションにおける体験価値は重要視しています。体験することで、空気感や匂いなど、視覚だけでなく五感に訴えることができますから。自分も茂出木さんも音楽が大好きで、ライブにもよく行きます。そこには一体感があり、深いコミュニケーションがある。そこでしか味わえない“実感”というのは、どんなにテクノロジーが発展しても、人間である以上、求められ続けるものだと考えています。


島村――僕もそう思います。「体験を求める」というのは、人間の本能として今後も変わらない本質のひとつだと思います。そのなかで、どんなストーリーを組み合わせて、体験価値を最大化するかが重要になってくるのではないでしょうか。

あさぎーにょ――その体験自体が“ユーザーとの絆”になりますよね。

隈部――はい。その絆をいかに深め、愛着を持ってもらうか。それこそが自分たちの仕事だと思います。何故それが生まれたのか、その背景ちゃんと伝えて共感してもらう。ブランドの成長ストーリーを共有し、その仲間としてユーザーを巻き込んでいくといったインタラクティブなコンテンツ作りが求められる時代に入っていると感じます。本日はありがとうございました。
隈部 浩
株式会社 電通テック クリエーティブディレクター/アートディレクター
ロゴを中心としたコミュニケーション全般を担当。ブランディング、企画、映像、ディレクション、デザインなど。
受賞暦 NY Festivals / Gold、AD Stars / Finalist。
第64回広告電通賞 / 最優秀賞、第79回毎日広告デザイン賞 / 準部門賞。
朝日広告賞 / 準出版部門賞、日経BP 広告賞、日刊工業新聞広告賞 / 二席。日本雑誌広告賞 / 銀賞。

茂出木 龍太
株式会社ツートン アートディレクター/代表取締役
2010年、デジタル領域を軸とした、コミュニケーションデザインを構築する同社を設立。ウェブ、アプリ、映像、グラフィックなどの分野で、企画・設計・アートディレクション・デザインを手掛ける。国内外の広告賞/デザイン賞多数受賞。インタラクティブコンテンツのディレクションや、映像の企画演出を手がける。

島村ビギ
CHOCOLATE Inc. プランナー
1994年生まれ。東京大学でまちづくり・建築を専攻した後、株式会社チョコレイトに参加。6秒商店を始めとしたオリジナルコンテンツから、ブランデッドコンテンツまで分野横断的な企画を担当。個人活動としてポータブルネギ、セルフチア横断幕、自動翻訳カメラ「気になルーペ」など、必要なのか不必要なのか分からないモノづくり活動も行なっている。

あさぎーにょ
CHOCOLATE Inc. プランナー
「へんてこポップ」という世界観を幅広い分野で表現し続ける次世代のSNSアーティスト。YouTubeやTikTokなどSNSでの合計フォロワーは150万人を超え、音楽、ファッション、映像制作と幅広い分野で活躍中。新しい音楽の届け方や独自の世界観の表現を追求するなど、常に新しいことに挑戦し続ける姿が若い世代から多くの支持を得ている。最近では、2019年末に公開した動画「もう限界。無理。逃げ出したい。」が公開から1日で100万回再生され、YouTube急上昇ランクで1位を取るなど話題に。

Written by: BAE編集部

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