2022-03-15

宇宙、食、NFTなど、新カテゴリに沸いたCES2022レポート

2022年以降の注目トピック・トレンドを識者が読み解く
毎年1月、北米最大のテクノロジー業界団体CTA(Consumer Technology Association: 全米民生技術協会) がネバダ州ラスベガスで開催するCES。昨年はコロナ禍を理由に”完全オンライン”としたCTAですが、今年度はオンライン・オフラインどちらも並行して行うハイブリッド開催となりました。CESを約20年に渡って取材してきたジャーナリストの野々下裕子さんに、2022年のCESで発表された注目のトピックスやトレンド、今後ウォッチすべき動向について伺いました。


初のハイブリッド開催、注目キーワードは「宇宙」と「持続可能性」

――コロナ禍での開催が危ぶまれる中、今年のCESはオンライン・オフライン双方でのハイブリッド開催となりました。出店社数や参加者には、どのような変化があったのでしょうか。

CES 2022は、2021年の完全オンライン開催の経験からか、早々にハイブリッド開催を発表していました。その甲斐もあって、出展者数はそれなりに伸びると思われていましたが、昨年末から米国でも感染が再拡大。最終的な出展者数は、800社のスタートアップ企業を含む2,300社以上と、2020年の4,500社に比べて半分近くにとどまりました。。



——CESでは毎年、テックトレンドとして、CTAが発表するキーワードがありますが、今年のトレンドは、どんなものだったのでしょうか。

CTAが発表した「CES 2022 Trends to Watch」で注目すべきトップトレンドとして挙げられていたのは

「Transportation(運送)」
「Space Tech(宇宙)」
「Sustainable Technology(持続可能性)」
「Digital Health(ヘルステック)」


の4つです。そのうち「Space Technology」は「Food Technology」「NFT」とあわせて新しい出展ジャンルとして今年から追加されたもので、次回は出展数が増えるかもしれません。

カンファレンスではアメリカの航空機・宇宙船開発製造会社のSierra Nevada Corporationが登壇し、民間宇宙ステーションの開発などを進める新会社の構想について語った。画像はカンファレンスで公開された映像

投資先としては「Retail Tech(小売り)」「Fintech(金融)」「Healthcare(健康)」の3つで数字が伸びており、トレンドというより市場として定着してきたという印象です。他にも「Metaverse(メタバース)」「XR(クロスリアリティ)」など仮想現実関連のキーワードが挙げられていましたが、人のような動きをするAIロボット「Ameca」や、農業機器メーカー、John Deereの自律型の全自動運転トラクターなど、AI関連の技術の方が実用化が進んでいるように感じられました。

本物の人間のようなリアルな表情を浮かべるロボット「Ameca」はCESでも話題に。画像はAmecaのプロモーション映像より
John Deereの全自動トラクター。画像はJohn Deereのプレスカンファレンス映像より

同じく実用化では、レベル3(自動運転の技術レベルで、システムがすべての運転タスクを実施するが、システムの介入要求などに対してドライバーが対応することが必要な段階)を目指す自動運転技術の開発競争が本格化し、スマートモビリティやエアタクシーを含む「Future of Mobility」としてCESでの注目度が高まっています。


パンデミックをイノベーションの契機に

——世界中の企業が基調講演を行うことでも知られるCESですが、今回の発表には、どのようなものがありましたか。

基調講演はSamsung、GM、そしてヘルスケアメーカーのAbbott(アボット)の3社が行いました。このうち、特に注目したいのがAbbottです。Abbottは医療系では初めてのキーノート登壇ということもあり、米国では大きな話題になっていました。同社が発表したボタンのようなパッチを腕に貼って、血糖値をはじめとした様々な生体情報を計測するウェアラブルデバイス「Lingo」は、医療用だけでなくアスリートの体調管理などにも応用でき、専門家とユーザーの間で健康に関するデータを共有できます。

一般消費者向けのバイオウェアラブルセンサー「Lingo」は、小さな体に貼り付けたバイオマーカーからさまざまな情報を読み取り、健康管理やスポーツに生かすことができるデバイス

Abottは2021年に「ニューロスフィア・バーチャル・クリニック」という遠隔治療のソリューションを発表している企業。今回の展示ブースにもかなり力を入れていて、デジタルヘルス市場がレッドオーシャン状態になる中、CESを契機に飛躍を見せるのか気になるところです。

基調講演で上映された遠隔治療のデモンストレーション映像

——遠隔治療は日本国内でも注目されている分野ですので期待できそうですね。ヘルスケアといえば、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響を感じられるテックトレンドはありましたか?

テクノロジー企業はパンデミックを契機にイノベーションを起こした、という印象です。CES 2021に引き続き、スマートマスク、消毒ロボット、COVID-19の症状を検知する身体センサー、スマートな空気濾過システムを提供する企業が出展しました。


各社が環境問題の解決に向けた取り組みをアピール

——日本企業はどのようなものを発表したのでしょうか。

今年のCESで最も注目を集めた企業はまちがいなくSONYでしょう。例年どおり自社展示ブースで行われたプレスカンファレンスでは、発売が噂されていた次世代バーチャルリアリティシステム「PlayStation VR2」と専用コントローラーを発表。CES 2020で話題になったプロトタイプ車両「VISION-S 01」に次いで、セダンタイプの「VISION-S 02」と新事業会社「ソニーモビリティ株式会社」の今春設立を同時に発表し、大いに会場を沸かせました。

プレイステーションブランドのVRヘッドセット、PlayStation VR2

ただし、ほとんどの日本企業は出展を控え、例年大型ブースを出展するPanasonicは映像のみの展示、自動車メーカーもほとんど姿が見られませんでした。そうした中で健闘していたのがCANONのブースで、Panasonic子会社のShiftallが開発するVRヘッドセット「MeganeX」をはじめとしたメタバース向け製品は、海外のメディアに数多く取り上げられていました。

従来のVRヘッドセットのイメージを崩した、Shiftallの軽量メガネ型VRヘッドセット「MeganeX」

日本のスタートアップが集まる J-Startup/JapanパビリオンはEureka Parkで40社、新たに加わったVenetian で12社と、2020年の倍にあたる過去最多の出展となり、6社がイノベーション・アワードを受賞しています。中でもSkyDriveは2025年の大阪・関西万博での飛行に向けて開発中の空飛ぶクルマを展示して話題を集めました。それでも残念ながら会場では、米国に次いで出展数が多かった韓国の方がインパクトがあり、メディアへの露出度も高いものでした。今後もハイブリッド展示が続く場合にどのような展示戦略をとるべきか日本企業はもっと考えた方がいいかもしれません。

——サスティナブル分野はどう変化したでしょうか。

大きなところでは韓国のSKが自然環境との調和をイメージしたブースを出展したり、Samsungはすべての家電の待機電力をなくし、電池を使わないリモコンを開発すると発表したりしています。さらに、アウトドアメーカーのPatagoniaとフリースなどの衣類から出るマイクロプラスティックを除去する洗濯フィルターを開発するなど、環境問題に向けてオープンイノベーションでの取り組みをアピールしています。
Samsungの基調講演では、プラスティックゴミ問題に取り組むPatagoniaとのコラボが発表され、洗濯機の開発について触れられた

「AUTOMOTIVE」ジャンルでは、既存のモーターショーよりいち早くEVや自動運転車の未来ビジョンを展示してきましたが、ボディカラーをEinkで変化させるBMWの「BMW iX Flow featuring E Ink」のように、デザイン性とあわせて車両で使用する電力の削減につなげるアイデアが大きな注目を集めました。

電子書籍のディスプレイなどにも使われているEinkで車体のカラーを変化させるBMW iX Flow

サブカテゴリの「Vehicle Technology」ではガソリンに代わって使用するエネルギーの開発とその提供方法までトータル開発するアイデアも出展され、「Future of Mobility」につながる電動自転車やバイクなどのスマートモビリティもまだまだ新しい製品が登場しています。これらにはなぜか「5G&IoT」のサブカテゴリになっている「Smart Cities」「Resilience」「Sustainable」とあわせて、都市開発を支える新しい技術やアイデアが世界から集まっていますが、今年は残念ながらオンラインだけでの発表も少なくありませんでした。環境問題の解決には、新しく追加されたFood TechやSpace Techも関わってくるので、来年はどのような展示があるのか期待したいところです。



「ヘルステック」は健康機器から医療機器へ

——野々下さんが個人的に注目しているカテゴリーや展示を教えてください。

注目したのは「AUTOMOTIVE」です。自動車メーカーの出展数は少なかったのですが、技術的に面白い内容が多かったと感じました。今やクルマは電子部品の塊になっているわけですが、その流れでIntel、QUALCOMM、NVIDIAといった半導体メーカーが自動車分野で勢力を伸ばし、それぞれがどの自動車メーカーと組むか競争がはじまっています。中でもQUALCOMMのCristiano Amon CEOはプレスカンファレンスやトークセッションで自動車業界に力を入れると精力的に発言し、最新のSnapdragonの開発とサポート体制を用意していると発表しています。Volvoは次に発売するEVにAndroid Automotiveを搭載したSnapdragonを採用する予定で、だんだん話題が昔のCESで話題だったパソコンが登場した頃に近いような感じになってきているのも面白いですね。

「Digital Health」に関しては、冒頭でご紹介したAbbott以外にもう少し身近なところだと、「スリープテック」が依然として好調です。コロナ禍による不眠の問題は世界でも問題になっていて、適度な振動で睡眠を促すベッドや、睡眠中の姿勢にあわせて空気圧を変えるスマートエアマットレス、睡眠の質を測るセンサーなど、技術的に目新しいモノではありませんが、ジャンルとしてしっかり定着してきたと言えます。全体の傾向としては、いわゆる健康機器から医療機器へ、ヘルスケアからバイオテクノロジーへ技術が専門化しているだけという印象です。
ヘルステックブースの様子

具体的には、日本でもはじまったオンライン診療は欧米でもこれから利用が増えると見られ、LGが対面診療できるスマートテレビを発表しています。実はこの分野で先行しているのはオムロンで、高血圧患者をリモートでモニタリングするサービス「VitalSight」を2020年9月から米国で展開しています。

昨年のCESでも注目を集めていた「VitalSight」は、オムロンのカンファレンスでも紹介されいた

他にもリモートで体の状態を診断できる機器や、家庭で様々な検査ができるキットなどが登場していて、時計やバンド、指輪、イヤホン型など、いろいろな方法で生体情報を計測するデバイスもさらに増えていますが、精度の高い日本製と、この分野に力を入れている韓国との間で新たな競争が始まるかもしれません。医療機器として早く認証され、実用化されるようになってほしいところです。

——来年以降のCESも、ハイブリッドでの開催になるのでしょうか。今後の開催動向予測を教えていただけますでしょうか。

展示会の前日に行われるプレスカンファレンスは、双方向で質問ができるのであればオンラインのみでも問題ないですし、すでにAppleやSamsungなどの企業は新製品発表をそうした方法に切り替えています。その場にいる臨場感はMetaverse時代になれば違和感がなく再現できそうですし、一番問題になっている製品の質感を伝えるハプティクス(触感)技術もだいぶ進んできたので、出展する側はこれまで以上に、展示アイデアやプレゼン方法に新たな発想求をめられそうです。引き続き渡航が問題になるようであれば、各地にバーチャルブースを設けて展示するようなことになるかもしれませんが、個人的にはできれば現地に出かけて展示会を体験するという形は残してほしいと思っています。

2022年、新たに登場した「宇宙」カテゴリは、今後民間企業の参入が相次ぎ、ますます盛り上がっていきそうです。また全世界的な潮流となっている「サスティナビリティ」は、テックの世界でも新たな指針となっていることは間違いなさそう。テクノロジーが持続可能性をどのように実現していくか、今後ともその行方に目が離せません。
私たちの生活に身近な話題としては、やはりヘルステックは依然として注目度は高いと言えそうです。コロナ禍以降、各企業一層ヘルスケア領域に力を入れているのは昨年と変わらずですが、2022年のトレンドとして「健康機器から医療機器へ」という変化は押さえておくべきでしょう。予見されるのは、病気になる前も、病気になってからも、テクノロジーが継続的に私たちの健康を支えてくれる未来。私たちの生活の時間すべてに絶え間なくテクノロジーが寄り添う、そんな社会の流れを感じさせてくれたCES2022でした。

野々下 裕子
ジャーナリスト
デジタル業界を中心に国内外で開催されるカンファレンスやイベントの取材、インタビューなどの記事を IT やビジネス系オンラインメディア向けに執筆する他、マーケティング調査やリサーチ分析などの活動を行う。対象ジャンルは世界のスタートアップ市場をはじめ、スマートシティ、モビリティ、ロボティクス、AI、XR、デジタルヘルス、ウェアラブルなど多数。

Written by: BAE編集部

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