2022-12-16

会話の量を見える化する技術が、より良い空間とコミュニケーションをつくる

今までになかった「盛り上がりの計測」のメリットとは
オフィスや店舗、イベントスペース等で、集まった人々がどのように行動しているのか、測定・分析を行うことで、より良いサービスやコミュニケーションに繋げようとするテクノロジーが進化しています。

ハイラブルが開発する「Bamiel(以下、バミエル)」もその一つ。空間内の「会話の量(盛り上がり)」をリアルタイムで計測し、見える化するソリューションです。

録画・録音や映像分析からは得られなかった「会話の量」という情報は、コミュニケーションやサービスにどう活用できるのでしょうか。ハイラブルの水本さんに伺います。


その場の状況が「会話の盛り上がり」で一目瞭然

――「バミエル」はどのようなソリューションでしょうか。簡単に教えてください。

計測したい空間にたまご型の専用レコーダーを設置して、会話量をリアルタイムで計測・分析し、結果をグラフ等で見える化するソリューションです。
技術的には、我が社がこれまでに取り組んできたのべ5万人以上の音環境分析を応用しています。

たまご型で、空間に馴染みやすいデザインのバミエル専用レコーダー。角度によって話者の位置関係などを計測する。下部はデバイスと付属物をまとめて収納するボックス

――「会話量」を計測し、見える化することで、どのようなことがわかるのでしょうか。

“その場の人々の盛り上がり” がデータによって一目でわかります。

リアルタイムで会話量を計測。結果を分析し、グラフやレポートで表示する。会話を増やすための環境の改善や、コミュニケーションの活性化に繋げられる

その場に集まる人の数や属性等は、入場者数や位置情報データ、カメラ映像等から知ることができます。しかし、集まった人々による会話の有無や、盛り上がりの様子まではわかりません。

昨今のコロナ禍を経て、オフィス内での雑談等を含む会話や、リアルイベントに集まる意味や価値はより重視されるようになりました。そこで私たちは、会話量を測定し、人々のやりとりが活発である(または活発でない)理由や条件の分析を行うことで、行動やコミュニケーションにフィードバックするためのソリューションの開発に取り組むことにしたのです。

会話の録音や音声のテキスト化等の技術と異なり、会話の内容やプライバシーに関わるデータを保存する必要がないこともポイントの一つです。

――実際に、イベントやオフィスで会話量を測定された事例を教えてください。

2022年8月に「超異分野学会」において雑踏環境での盛り上がりを可視化する実験を行いました。18m×9mのポスターセッション会場に14台のレコーダーを設置して測定を行ったところ、会話が活発なエリアが時間帯によって異なることがわかりました。

2022年10月の「CEATEC 2022」の東京都中小企業振興公社のブースでも、雑音の多い場所でのバミエルの技術検証と、展示会での効果検証を目的とした実証実験を行いました。

展示会会場における会話量をヒートマップによって可視化した際のモデル画像

――結果はどのように役立てられるのでしょうか。

リアルタイムでデータを表示することで、「大勢と話したい場合はにぎやかなスポットに行く」「静かに過ごしたい場合や、特定の人としっかりと話したい場合は静かな時間帯に行く」など、参加者の選択肢を増やし、満足度を向上させることができます。
また継続的なデータを参照すれば、イベントスペースの設計、展示物や什器の設置、人員配置などの最適化、人流のコントロールなどを行う際のエビデンスとして役立つでしょう。

現在コクヨ 様と共同で、社内のコミュニケーションスペースでも、24時間測定を実施しています。結果は、会話が弾みやすくなるオフィス家具の開発や、コンサルティング事業に活用されています。
不動産業界の企業などからも「会議室やスペースをリフォームする前後で、コミュニケーションの活性化や顧客の満足度に変化があるかを調べたい」といった問い合わせが増えています。

コクヨによる「DAYS OFFICE CAFE(デイズオフィスカフェ)」。コミュニケーションに与える効果検証に、バミエルによる音声を含む音環境の計測・分析が生かされている
※画像はコクヨ公式リリースより

――イベントや社内だけでなく、店舗設計などにも応用できそうですね。

はい。会話が盛り上がりやすいスペースに重点的に接客スタッフを配置したり、例えば、来店客数などのデータに、「スタッフとお客様の間でいつどれくらい会話が盛り上がったか」といったデータを加えれば、より正確なエンゲージメントの計測などに繋がるのではないでしょうか。

会話が盛り上がっている場所の近くのサイネージに、盛り上がり度に応じたお知らせやおすすめ情報を表示するなど、情報の出し分けにも活用できます。


「話が盛り上がる理由」を接客やチーム編成に役立てる

――1対1の面談や複数人での会議など、対面での話し合いの計測も可能だそうですが、どのような内容でしょうか。

「レコーダーから見てどの角度に誰がいたか」という情報から、個々の発話量や会話の変化を見える化するソリューションも提供しています。
データを参考に、例えばファシリテーターが発話量の少ない人に質問を振るなど、より良い話し合いの構築に役立てられます。

――リアルタイムで計測を見ながら話すと、その場のトークや雰囲気に大きく影響しそうです。実例などがあるでしょうか。

トークにどのように影響するかを説明するために、私たちが度々行っているゲーム的な使い方についてお話しましょう。このゲームは実際に、企業研修やアクティブ・ラーニングなどでも活用されています。

ルールは簡単で、参加者全員の発話量をリアルタイムで表示し、最終的に平均発話量に最も近かった人やチームを勝ちとします。喋りすぎても、喋らなさすぎもだめ、というわけです。

計測データを見ながらトークすることで「もう少し積極的に情報を追加しよう」「後半は質問する側に回ろう」といった具合に各々が気を配るようになり、チーム全体の発話量や理解度が向上します。2回目はデータを隠して行うなど、応用も可能です。

2021年2月に実施された企業内における体験会の模様

オンライン上でも会話量を測定できるサービスを展開していますが、リモート形式のワークショップの中でこのゲームを実践した際には、「カメラをオフにしていた参加者が、カメラをオンにし始める」という、興味深い変化が現れました。

ルール上積極的に会話をする必要があるので、次第に他の参加者に対する興味が出て、相互理解が深まっていく結果のようです。「オンラインで、しかも初対面なのに(話が盛り上がって)SNSのフレンドになった」という方々までいました。

リモート会議などの発話量を計測する「Hylable(ハイラブル)」の表示イメージ。複数のルームの状況を同時に閲覧することも可能

――オンライン上での会話量の計測は、どのように活用できるでしょうか。

例えば、WEB会議後のブレイクアウトルームなど、複数の場での発話量を管理者などがまとめてチェックをして、会話が少ないグループに話題を振る、といった使い方が可能です。

――データを継続的に計測・分析することには、どのようなメリットがあるでしょうか。

この点はオンラインでもオフラインでも同様ですが、データを継続的に計測し、分析すれば、会話量の増減やその条件が見えてきます。

例えば、当社のベテランと新人による営業トークのデータを比較したところ、発話量とタイミングに明確な差がありました。ベテランは相手の話を聞くターンを設けながらバランスよく会話をしていたが、新人は全体を通して話し続けていた――といった違いがあったのです。

データの比較によって、「Aさんは普段無口だが、Bさんが同席していると発話量が増える」といった点が見つかる場合があります。
AさんとBさんに共通の話題が多いとか、一緒にいると心理的安全性が上昇してパフォーマンスに繋がっていたとか、何らかの理由がわかれば、その場の会話に留まらず、グループ分けや組織編成などに生かせるはずです。

ドイツ国際協力公社によるモザンビークの教育支援プログラムにおける実証の模様。初等教員養成校内での話し合い活動を計測・分析し、学生へのフィードバックが行われている

工学院大学附属中学校・高等学校でも、私たちのサービスを英語のグループディスカッションで利用していただきましたが、半年ほどで生徒さんのスピーキングスコアが上昇するという結果が出ています。

発音や文法が違ってもとにかく喋る機会を増やし、結果を見ながらエンカレッジしていく。話せる時間が伸びたことを確認し、学習のモチベーションに代える――という学習・指導は、紙の上では難しいことでしょう。

会議も学習も、全ての録画を見直して確認するというのは現実的に厳しいですが、グラフ等で見える化すれば全体を俯瞰して、ポイントを押さえることができます。これも、録音・録画や文字起こしにはないメリットでもあります。


街づくりやより詳細な感情分析にも生かせる

――今後の活用の可能性や、その他のテクノロジーとの組み合わせによる可能性などについて教えてください。

例えば、バミエルを街の中の人々の盛り上がりに関する調査にも役立てられると考えています。
「意外な時間に意外なスポットが盛り上がっていた」といったことがわかれば、自然と共存するための環境づくりや、公共の整備や安全対策、騒音対策などに活用できるでしょう。長期的な計測も含めて、屋外での活用には様々な可能性があると考えています。

転じて、野生動物の観察に利用する、といった使い方も考えられます。鳴き声から活動時間や行動範囲を知るなど、バミエルのレコーダーなら画角に制限のある録画では難しい部分のデータが取れると思います。「声」に注目するというロジックは、人間でも動物でも同じです。

その他のテクノロジーとの組み合わせについては、録画や位置情報データとのオーバーレイによって分析項目を増やすことが挙げられます。これはすでに一部実証等を行っています。

また、感情分析技術を付加することで「楽しい会話で盛り上がっているのか、悲しくて声を上げているのかを判定する」などの進化が考えられます。今後ぜひトライしていきたい分野です。

――目標などを教えてください。

科学的にも証明されていますが、様々な立場や考え方を持つ人々が豊かな会話によって意見を交換し、日常に多様性を取り込むことは、多くの課題に対して有用であることが知られています。
“豊かな会話” とは、会話の量をとにかく増やす、ということではありません。むしろ、量は増えても、結果的に減ってもかまわないでしょう。重要なのは、会話の質を向上させ、相互理解を深めるためのコミュニケーションを実現することです。

私たちは今後も、会話という音を定量的・客観的に分析し、その場で何が起きているのかを知るテクノロジーの開発と普及を進めることで、人々のコミュニケーションを手助けしていきたいと考えています。
立場や意見が異なる人々が分かり合う機会を増やすことができれば、世界は今よりもう少し平和になるのではないでしょうか。
ハイラブル株式会社 代表取締役 水本武志(みずもと・たけし)さん
発話量や話者が話しかける相手などを一目で理解しやすく、データ同士を比べやすい、などのメリットを持つ “盛り上がりの見える化”。周辺には「音声を認識してテキスト化する」「録音した会話の詳細を分析する」など、一見近しいテクノロジーが存在しますが、どれとも異なる独自の視点として役立ちそうです。
今後はオンライン、オフラインともに、顧客とのコミュニケーションを増やし、豊かにするための店舗設計などへの利活用が期待されます。
Written by: BAE編集部

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