2023-04-04

性格や行動に影響を与える、オンライン授業から見えたアバターの意外な効果

「アバター」がメタバースの体験価値を左右する
仮想空間や、インターネットサービスの中で、自分の分身となってくれるキャラクター「アバター」。ゲームの中で、コミュニケーションアプリの中で、はたまたバーチャルオフィスの中で、自分のアバターを作成した経験のある人は少なくないはずです。

近年では、商業施設や駅構内、モデルルームなど、仮想空間を飛び出したさまざまな場面でも活用が進んでいるアバター。活用の現状と、今後の可能性について、大学のリモート授業でのアバター活用に取り組まれており、「NICE CAMERA」というアバターを取り入れたWeb会議ツールを開発されている、デジタルハリウッド大学の准教授であり株式会社キッズプレート 代表取締役の茂出木 謙太郎さんにお話を伺いました。


アバターに感情移入するには「ストーリー」が必要

――もともと「アバター」という概念はどのように生まれたのでしょうか。

アバターとは、インド神話のアヴァターラが語源であり、サンスクリット語で「権現」「化身」「降臨」を意味します。それを元ネタにして1970年代にゲームキャラクターをアバターと呼ぶ例が見かけられるようになってきました。さらに1980年代にはいってパソコン通信がグラフィカルになった『ハビタット』というゲームが、自分の分身キャラクターを明確に「アバター」と命名し、やがて一般的に使用されるようになりました。

――茂出木さんは、コロナ禍に生徒と先生が全員アバターで授業に参加するというユニークな検証も行われ、その結果を論文としても発表されています。アバターを使ったオンライン授業を実践する中で、どのようなことがわかってきましたか。

アバターを使ったオンライン授業の様子

アバターには、「なりたい自分になれる」というメリットがあります。ですので、当初は、オンライン授業にアバターを導入することで、見た目による差別であるとか、身体的な障害による差別であるとか、さまざまな不平等を解消できる、ということを考えていました。ところが実際に導入を進めていく中で、アバターの別の側面も見えてきました。

興味深かったのが、アバターの見た目が人の性格や行動に影響を及ぼすということです。実はこの作用のことを「プロテウス効果」といって、日本でも多くの追実験が行われています。

例えば僕の授業でも、話すことが苦手で、アバターもてるてる坊主みたいな口のない、明らかにコミュニケーションをする気のないキャラクターを使用していた学生が、自分から坊主頭の男の子にアバターを変えてからはしゃべる頻度も上がってきて、何なら授業が終わった後も残って僕とずっとしゃべっているくらいに変貌しました。

――仮想世界の「アバター」が、現実の自分に影響を及ぼすというのは面白いですね。それだけ、アバターと自己を同一視できているということでしょうか

学生の中でも、自分でアバターをデザインしたり、衣装を買ってきて着替えてみたりと、アバターでおしゃれを楽しむ子も増えてきています。(アバターを利用したサービスを設計する上でも)ユーザーが自分のアイデンティティの一環としてアバターを捉えられるかどうかが、重要になってくると思います。


――アバターを導入したことで、授業にはいい影響がありましたか。

成果は上がっていると思いますね。学生の中には、コミュニケーションが苦手な子や、少し気分が落ち込んで授業に出たくないという子も多いのですが、「プロテウス効果」を実感してからは、アバターの見た目をかわいくしてみたり、バーチャル背景を変えてみたりして、自分の気分が乗るアバターで授業に参加することを推奨するようにしています。

――現在、さまざまな企業がメタバースサービスの提供を開始していますが、用意されたアバターに感情移入できず、世界観に没入できないという課題があるように感じます。茂出木さんはこの問題をどのようにお考えですか。

おそらくアバターにストーリー(文脈)がないことが没入できない要因だと思います。先ほど人間がアバターから影響を受けるという効果を説明しましたが、このアバターがどんな人物像なのかわからないと、影響も受けようがない。

例えば、VTuberが、見た目がかわいかったり、肌の露出が多かったりといったデザインに偏りがちなのも、そこにストーリーがないからだと思うんですよ。何も思い入れのない状態から、短時間で視聴者に好きになってもらうために、そういった記号的な部分を強調するしかない。

これは「アバター」だけではなく、「世界観」にも言えることです。現実の街をメタバースで再現するという取り組みが増えていますが、そこに人を滞留させることは難しいと考えています。いくら街をリアルに再現したり、実際の地名を冠したりしても、ストーリーや文脈がないため、その場所に行く理由が生まれません。

いまのメタバースサービスを作る人たちには、いかにメタバースに物語を乗せていくかという発想が、足りていないように感じます。そういうのって、日本人は得意なはずなんですけどね。


「メタバース」と言っているうちはサービスは普及しない


――今後、メタバースやアバターを普及させる上で必要なことはなんでしょうか。

何をもって「普及」とするかは微妙なのですが、例えば最近のゲームは、冒頭で自分が動かすキャラクターのキャラクリ(キャラクタークリエイト)をすることが多いんですけど、これってもう「アバター」なんですよね。

実はオンライン授業でアバターを導入する際も、僕ら学校側はメタバース空間で授業をやるということを考えていたのですが、学生の側はそこまで乗り気ではなくて、けっこうフィジカル派が多かったんです。それというのも、学生たちは既にゲームの世界でメタバースとかアバター的なものを経験しているから、すごく冷静に見ているんですよね。

――「アバター」や「メタバース」と意識せずして、既に普及は進んでいるということでしょうか。

そうですね。ですから、逆にいえば「アバターのサービスです」「メタバースのサービスです」と言っているうちは、アバターやメタバースは浸透しないと思っています。

例えば、ディズニーランドやディズニーシーに行くと、VRの技術を使ったコンテンツがたくさんあるんですけど、これはVRの技術ですとは、一言も謳っていません。これ、すごい重要なことだと思っていて、というのも、VRやメタバースというのはあくまで手段であって、本来の目的は、お客様に楽しんでもらうことじゃないですか。

――VRやメタバースを目的化してはいけない、と。そうなると、例えば「仮想空間でショッピングができます」というメッセージの伝え方も変わってくるかもしれませんね。

はい。「仮想空間でショッピングができますよ」という言い方だと、「なぜ、仮想空間でショッピングをすることが便利なのか」という説明も必要になってきます。こちらが一生懸命説明しなくても、単純に楽しいと思ってもらえるサービスや体験を提供することが大事なのではないでしょうか。


人間をサポートするAIアバターやIPを使ったアバターへの期待


――今後の、アバター活用の展開について、茂出木さんはどのようにお考えですか。

今後はAI技術の発達によって、人間と変わらないくらいリアルな、AIアバターが登場するのではないかと想像しています。そのうち、見た目も中身も、個々人に特化したAIアバターが、秘書のように人々をサポートするという未来が来るのではないでしょうか。

――具体的にはどのようなイメージでしょうか。

仕事中、サポートキャラクターみたいなアバターが常にそばにいて、「誰々さんとのミーティングを設定して」みたいなお願いをすると、AIアバターがブッキングや時間設定、会議室の予約までしてくれるということは、比較的すぐに実現できるのではないかと思います。人間が常にAIに話しかけながら、仕事を進めていく感じですね。

サービスが人格化してユーザーと常に一緒にいるようになるのは、アバターの在り方として面白いと思っていて、例えば最近のカーナビは人間の声に反応してくれるものも登場しつつあるのですが、もっとカーナビに人格があってもいいじゃないかと僕は思うんですよね。そうすることで、もっとその車のことが好きになったり、愛着が湧いたりするのではないでしょうか。

――既に音声スピーカーの登場によって、声のAIコンシェルジュは実現してきていますが、そこにアバターという「顔つき」が存在する優位性はなんでしょうか。

例えば、かわいい生き物やマスコットキャラを見ると、自然と笑顔になってしまったり、何かしてあげたくなっちゃったりしますよね。特に日本人は「かわいい」ものに対してとても敏感なのですが、見た目ってコミュニケーション上、とても重要な要素なんですよね。

――コンシェルジュ以外では、今後アバター活用はどのような展開がありそうでしょうか。

アバターが普及することで、将来的には一人一人の人間が、シチュエーションやその場での役割に応じた複数のアバター、「マイアバター」を持つようになるのではないかと考えています。

商用的な話では、IP(知的財産)を使ったアバターサービスが増えてくると思っています。フィギュアを集めるように、著名人や有名キャラクターのアバターを購入して、例えば仮想空間でのカラオケでONE PIECEのウタちゃんの曲を歌う時は、ウタちゃんのアバターで歌った方がきっと楽しいですよね。

IPということで、倫理的な問題など、クリアしなければいけない障壁はありますが、そこがクリアできれば、IPを使ったアバターサービスは一気に広がっていくと思います。

デジタルハリウッド大学准教授、株式会社キッズプレート 代表取締役 茂出木 謙太郎さん
茂出木さんのお話を聞いてもわかるように、コミュニケーション型のオンラインゲームの普及によって、既に若者たちの生活の中には、アバターやメタバースといった概念が自然に溶け込んできています。

メタバースや、アバターを通じた接客が、今後重要なチャネルになってくることは間違いありませんが、利用されるメタバースサービスになるためには、ストーリー性のある世界観を用意したり、アバターに自己投影しやすいようにカスタマイズの自由度を高めたり、他サービスと横断的に同じアバターを利用できる仕組みを設計したりと、「ユーザー体験」を起点としたサービス設計が必要となってくるでしょう。

Written by: BAE編集部

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