2020-07-15

耳から心に響く「ASMR動画」のポテンシャル──その効果とは?

聴覚から訴求し、臨場感を生み出す体験価値
日経トレンディが選んだ「2020年ヒット予測ランキング」8位にランクインした、耳から心地よい刺激を生み出す「ASMR」。昨今、新型コロナウイルスの影響で、“コンタクトレス”かつ“有効なアプローチ”を各社が模索していることもあり、ASMRは現在、企業のプロモーションに活用される事例も増え、その注目度も高まっています。

では、ASMR活用にはどのようなメリットや、効果があるのでしょうか。ASMR動画の制作も手がける、株式会社MIRAI サウンドクリエイターの山内 結さんにお話を聞きました。



耳から脳へ。心に作用するASMR動画

——ASMRは、“音フェチ”のニッチな世界と思っている方も多いと思います。しかし、実際は違うといいますよね。

はい。誰にでもひとつは、「好きな音」がありますよね。川のせせらぎを聞いていると、なぜだかわからないけれど、落ち着く。ASMRという言葉の意味自体はその逆で、高揚感を生み出す音を概念的には指します。Autonomous Sensory Meridian Responseの頭文字を取ったもので、日本語では「自律感覚絶頂反応」と訳されます。

本来は視覚や聴覚、触感も含まれますが、近年は、主に聴覚による刺激によって生まれる心地よさや、ゾクゾク感がもたらされる現象をASMRと呼ぶ傾向にあります。

その誕生は2007年頃。海外(欧米)の掲示板で生まれたといわれており、2009年にはYouTube上で“元祖ASMR動画”といわれるイギリス英語の女性が話す「ささやき声」動画が人気となったことが、注目されるようになったきっかけと言われています。

日本でASMRという言葉が使われるようになったのは、ここ数年のことです。私自身2010年頃に特定の音、文字や線を書く音にハマって、動画を探した経験がありますが、その頃にはまだASMRという言葉はありませんでしたし、そうした動画の再生数も極めて少なかったと記憶しています。

Google Trendsで「ASMR」を調べると、2018年の6月頃から日本国内で検索数が急増していることがわかる
(画像出典:https://trends.google.co.jp/trends/explore?date=today%205-y&geo=JP&q=ASMR


ではなぜ、日本で欧米発のASMRが急激に広まったのか。その要因は、日本のオタクカルチャーにあると私は考えています。

たとえば、男性声優が優しくささやく声に癒される。こうした現象もASMRのひとつです。日本では、同様の癒しコンテンツが以前から人気を集めており、音による刺激を好意的に受け入れる地盤がありました。さらに日本には四季を愛でる文化があり、自然の音に触れ、五感で風情を感じる精神が根付いていることも、ASMRが多くの人々に受け入れられている理由といえるでしょう。

現在では、視覚×聴覚によって“感動体験”を生み出すASMR動画が日本では主流であり、大きな注目を集めています。なぜなら、耳から入って脳を刺激するASMRは、中毒性があり、人の心を魅了する力を持っているからです。ちなみに、ASMR動画のクリエイターは「ASMRist(アスマーリスト)」と呼ばれ、Z世代を中心に人気を博しています。

——つまりASMRとは、「心に作用する音(コンテンツ)」なのですね。ジャンルのようなものはあるのでしょうか。

ASMRは現在、大きく2種類に分類することができます。ひとつは、純粋に同じ音を繰り返すもの。川のせせらぎ、雨の音、木を削るなどがこれに該当します。これらの中の一部には「1/fゆらぎ音」と呼ばれる、科学的にも“心地よさ”を生み出す不規則な調和を持つ周波数を有していることがわかっています。

Apple社が公開している木工作業の音を楽しむASMR動画。同じような音が繰り返されるが、不思議と聞き入ってしまうのは、脳が心地よさを感じているからだそう

そしてもうひとつが、最近人気の 「ロールプレイ(ASMR動画)」です。昨今、CMやTVドラマでもASMRを意識した作り込みがされているのを見かけますが、その背景には、ロールプレイ型の動画人気も影響していると思われます。

なお「ロールプレイ」は、病院で診察を受ける一連の流れを非常にリアルな音で収録していたり、メイクする一連の動作をリアルな音ともに届けていたりなど、どれも趣味性が高いのが特徴です。中にはメンタル系の病気に寄り添うものや、子育てで疲れているお母さんをねぎらう動画など、リスナーの心の癒しを導くようなコンテンツも数多く見られます。


ASMRが生み出す、リアル以上の「非日常」

——最近では、さまざまな大手企業からASMR動画が発表され、大きな話題を呼んでいます。しかしASMR動画は人気ジャンルではあるものの、注目され始めたばかりです。それでも企業が積極的に活用する理由はどこにあるのでしょうか。

いちばんは、心に響くアプローチが可能だからではないでしょうか。

プロダクトを訴求する際に、品質を伝える方法は「体験」がいちばんです。体験さえしてもらえれば、視覚や触感、嗅覚などからその魅力を伝えることができます。しかしデジタル上ではそれができない。そのなかで、音だけはリアルと同様、もしくはそれ以上の「ブランド体験」を届けることが可能です。加えて、他社との差別化が図れる点も魅力といえるでしょう。

——差別化が図れるのは、ASMRがまだ定番手法ではないからでしょうか。

それもひとつかもしれませんが、「製品が違えば、音も異なる」ことも差別化につながる理由です。また、“どの音”を切り取るかによっても、届き方が異なる点もASMRの奥深さであり、面白さです。

具体例を挙げれば、家具のIKEAは「Oddly IKEA」(奇妙なイケア)というASMRを活用したキャンペーン動画を展開。家具のディテールを映像とリアルな音を組み合わせることで、その“使い心地のよさ”を視聴者の感性を通じて訴えることに成功しています。

IKEAのASMR動画。音の心地よさがそのまま、使い心地のよさを想起させる

「音から想起させる」という点では、CHANELは自社のバッグの製作過程をASMR動画化。裁断や裁縫の様子を臨場感たっぷりに届けることで、音を通じて、いかに丁寧なモノづくりがされているかを表現しています。その繊細な音は、CHANELの持つ“高級感”を耳から感じさせてくれるものとなっています。


なお、ASMR動画の強みは幅広いジャンルに対応できる柔軟性にあります。最近だと、メイク関連のASMR動画も人気で、そこに着目したのがスキンケアブランド「SK-Ⅱ」です。同社は、ふたりのタレントがASMR動画を作る模様を動画にすることで、「制作過程までを含めた、コスメのASMR動画」を作成し、人気を集めました。

——話題のASMR動画ですが、企業が活用する際のメリットというのは、どのような点にあるのでしょうか。

いくつかあると思いますが、「クオリティの高いASMR動画」は、非常に高い拡散力を持つ点ではないでしょうか。

当社では以前に、rohascompany社の「ヤクジョスイ」(シャンプー)のプロモーションとして、ASMR動画を制作したことがあります。高感度のダミーヘッドマイク(NEUMANN KU100)を使った、臨場感あふれる洗髪動画は、完成後、Facebook広告に少額の販促費用を投入したところ、あっという間に拡散し、多くのコメントがつきました。

特徴的だったのは「こんな広告ならもっと見たい」など、広告であることを理解した上で支持するコメントが多かったことです。このことは、ASMR動画がいかにユーザーに好意的に受け取られる存在であるかを実感する機会となりました。

MIRAI社とフォーリーアーティスト渡邊雅文氏が制作した、美容室でシャンプーされる「ロールプレイ型のASMR動画」

——“拡散しやすい”ASMR動画の特徴のようなものはあるのでしょうか。

シャンプーシーンのASMR動画制作を通じて、ひとつ発見がありました。それは、ASMR動画で切り取る音は「記憶と紐づいている」方がよい、ということです。つまり、リアルの音を知っているからこそ、ASMR動画をより楽しめるのです。

いわばノスタルジックな要素があることも、ASMR動画にとってはプラスです。既視感が生み出す、記憶と連動した感動体験は、多くの人にとって未知であるため、新しい体験となり心に残るからです。


ASMRは、withコロナ時代における架け橋

――リテールメディアの国内・海外動向についてお聞きできますか。

——ロールプレイ型のASMR動画は、誰かの体験を通して、追体験ができるのですね。まだ新しいジャンルということもあり、今後、新たなASMR動画が生まれる未来もありそうです。

その可能性は充分にあると思います。日本のプロダクトはどれも、高い性能を誇ります。だからこそ、プロモーションにおいて差別化することが難しい時代になっています。しかし各プロダクトには、固有の世界観があり、“音”があります。

その音は、ユーザーの記憶や思い出と結びつき、心に深く刺さるポテンシャルを有しています。それをコンテンツとして具現化したものがASMR動画だと私は思っています。

認知拡大、ブランディング、ファンづくりなど、ASMR動画の効果は幅広く、使い方次第によって、さまざまな可能性を生み出します。たとえば当社では以前に、フレンチレストランで行われたイベントで流す音楽に、“使用食材や調味料の生産地で録音した環境音”を使ったことがあります。すると「口と耳、両方から食べているような感覚」や「音で料理の歴史を知る」という新しい体験が生まれ、好評を博しました。

デジタル上でリアルな体験ができるASMRは、リアルと組み合わせることで、さらなる相乗効果を生み出す可能性もあります。withコロナと呼ばれる現在は、必然的に在宅時間が長くなっている傾向にあります。そのなかで、家の中でも臨場感のある体験価値を提供できるASMR動画は、企業のプロモーション活動において、今後ますます活用されていくのではないでしょうか。

そして、その先に待つ日常「ニューノーマル」においても、ASMRの持つ臨場感は、企業とユーザーをつなぐ架け橋として有効に機能し続けると考えています。

そこには、まだ見ぬ可能性が眠っています。企業とユーザー、双方がハッピーになるような、ASMR活用の可能性を今後も追求し続けていきたいです。

株式会社MIRAI サウンドクリエイター 山内結さん
聴覚からのアプローチによって、脳を刺激し、心地よさを生み出すASMR動画。リアルに近い、またはそれ以上の深い体験をデジタル上で届けられることは、withコロナ時代のプロモーションにおいては、非常に魅力的なコンテンツといえるでしょう。ASMR動画に参入する企業は、今後さらに増えそうです。
Written by: BAE編集部

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