2021-11-11

建築、医療から、フード、コスメまで。アップデートした3Dプリンターのものづくり

パーソナライズ製品の製造や1点もののアートも実現
3次元のデータに基づき、樹脂や金属等で物体を造形する3Dプリンター。関連機器の低価格化やUIが向上したことで、普及が進みつつあります。
現在、3Dプリンティング技術は、どのようなものづくりやビジネスに活用されているのでしょうか。導入の際のポイントは、どこにあるのでしょうか。
3Dプリンターの研究・調査や企業活用サポートなどを行う、一般社団法人 日本3Dプリンティング産業技術協会の松岡さん、三森さん、辻󠄀さん、大庭さんにお話を伺います。


世界中のどこでも素早いものづくりが可能に

——3Dプリンターの大まかな変遷を教えてください。

松岡――3Dプリンターは1980年に日本で発明されました。ただ、日本では特許取得がかなわず、1984年に米国で3Dプリンター装置が特許申請され、現在も続く有力な3Dプリンティング企業が創業されました。

2000年代になると、特許がいくつか切れたことをきっかけに、開発や企業参入が進みます。
書籍『MAKERS』で有用性が論じられ、2013年にオバマ大統領が3Dプリンターの活用によって米国産業のイノベーションを強化する戦略を発表したことなども影響して投資が盛んに行われ、ブームとなりました。

近年では、小型でリーズナブルな価格の3Dプリンターが登場し、個人で模型やフィギュア作りなどに取り組む人々も増えています。
また、機器や素材の開発が進んで、より高精度な樹脂、金属製品の造形も可能になり、航空機の部品などのより高性能なものも作れるようになって、活用がさらに広がりました。

現在は主に7種類の工法があり、各種金属、樹脂、セラミックス、コンクリート、また複合材料など、素材も様々です。

——3Dプリンターを活用するメリットを簡単に教えてください。

松岡――簡単にまとめると、次のような点が挙げられます。

・ デジタルデータを元とした、複雑で自由度の高い造形が可能に
・ 金型を作る必要がなく、少量生産や試作が早く低コストで実現
・ データ、素材、機器があれば、世界中のどこでもものづくりができる
・ 材料の無駄が従来の工法より少なくすむ

機器の熱効率に関する課題などもあるため、一概には言えないものの、材料の無駄が少ないので、SDGsや環境問題などへも貢献できる可能性があります。

——3Dプリンターは、主にどのような分野で活用されてきたのでしょうか。

大庭――基本的に、軍事、航空・宇宙、医療が三大分野と言われています。コストがかかっても、3Dプリンターの性能やメリットが優先される分野ですね。

製造業や生活者向けの活用が進んで来たのは、最近のことです。試作品の製造、工場でのロボットのパーツといった生産性を上げる道具づくりへの活用などが増えています。
最終製品の大量生産はコストの問題などで難しい場合も多いのですが、小型の製品など例外もあります。


1点ものや複雑なデザイン、軽量なアイテム等が得意

——実際に、どんなものづくりが可能になっているのでしょうか。

松岡――軍事、航空の分野では、軍事用コンテナ型の工場でのスペアパーツのオンデマンド製造、航空機のジェットエンジンの製造などが行われています。

米国国防総省向けに開発された、米国ExOne社によるコンテナタイプの3Dプリント工場。必要な場所で必要なものづくりができ、部品調達の時間や物流コストの削減が可能に
※ 画像はExOne社公式サイトより

イタリアのAvio Aero社では、航空機のエンジンに用いるチタンアルミの軽量なパーツを3Dプリンターで製造。従来よりも長い航続距離や高い性能を実現


松岡――その他、歯科の補綴治療に用いるかぶせものなど1点ものや、レースカーや高級車のエンジンや主要パーツなど、少数でも確実に必要なものの制作に重宝されています。

大庭――建設用3Dプリンターの開発も進み、世界中で、住宅、橋、歩道橋などの建築が実現しています。特に、ドバイ政府は力を入れており、2030年までに、建物の25%を3Dプリントによって建築することを目標に掲げています。国内でも、大林組がイベント施設などの建築への導入を検討しています。

米国Apis Cor社の3Dプリンターによってドバイに建てられた2階建てビル。厳しい環境下での終夜の作業や、ユニークなフォルムの建築が実現する

大庭――先ほど、最終製品の大量生産は難しい場合もあると述べましたが、イヤホン、スニーカーのソール、メガネのフレームなどの製造への活用は増えています。軽量で比較的小さいもの、形状が機能性を左右するものなどは、コスト的なバランスが取りやすいためです。

アディダスのランニングシューズ「ALPHAEDGE 4D」。バネのような推進力を発揮するグリッド構造のソールを3Dプリンティング技術で製造
※画像はアディダス ジャパン社リリースより



——注目される3Dプリンティング技術の活用事例や、ユニークな活用事例を教えてください。

大庭――身近な事例を中心にお話ししましょう。皆さんも目にしたものがあるかもしれません。

―医療用フェイスシールドや人工装具、手術用のガイドなど

コロナ禍では、3Dプリンターで製造されたフェイスシールドが医療現場への迅速な供給に貢献しました。また、陸上競技用の義肢の制作や、手術の際に身体を支えるガイドの制作などに、3Dプリンターが用いられています。

―国際スポーツ大会の表彰台

3Dプリンターの活用によって、複雑なデザインの表彰台が制作されたそうです。素材には全国のスーパー等で回収された廃プラスチックが用いられ、環境問題に貢献した例としても注目されました。

―マスカラのブラシ

3Dプリントしたブラシを使ったマスカラが製品化されています。マスカラの機能性を引き出すための、ランダムで柔軟性のある毛先がついたブラシの製造に、3Dプリンティング技術がマッチしたのでしょう。
従来のように、毛先を一定の形に配列するのではなく、3Dプリンターによって微妙にずらして配列したプロダクトを実現させ、かつ小さく、ゴムのような素材で大量に作るということに成功しています。

CHANELでは、3Dプリンターで制作した10種類のブラシと、2種類のフォーミュラ(マスカラ液)を組み合わせた、パーソナライズマスカラの提供を期間限定で展開
※画像はerpro group社公式サイトより


三森――
製品関連の事例とは異なりますが、企業やクリエーターが、3D CADのデータの提供を行うサイトなども注目されています。誰でも扱える小型の3Dプリンターの普及も進み、欲しいパーツやデザインを、社内や自宅でもプリントできる時代になっていますね。

——3D CADや3Dキャプチャの技術など、周辺のテクノロジーも発展し、デジタルデータの取得が容易になったことも一般化の要因だといえそうですね。

三森――はい。フィギュアなどの3Dデータが販促やPRの際に配布された例や、写真やイラストなどを3Dデータ化して、3Dプリンターで立体造形物に仕上げるサービスなどもあります。
今後は、BtoC、CtoCで、クリエーターやアーティストからデータや作品を購入するといったことも可能になりそうですね。
(左)文具、ホビー、ユニークなガジェットなどのデータが豊富な「Thingiverse」
(右)機械や自転車の部品などのデータを、主にエンジニア向けに提供する「GrabCAD」



医療やバイオ、パーソナライズ製品への活用に期待がかかる

——今後は、どのような分野で、3Dプリンターの活用が拡大していくでしょうか。

松岡――医療やバイオの分野への活用、マス・カスタマイゼーションに対応する形での活用などは、伸びしろが大きいとされています。

まず、医療の分野では、歯や骨などのインプラント、人工血管、人工心臓弁、また、臓器のモデル等を3Dプリンターで作成するための研究開発が進んでいます。

スタンフォード大学とノースカロライナ大学チャペルヒル校では、3Dプリントでつくるワクチンパッチの研究が進められている
※画像はノースカロライナ大学チャペルヒル校公式サイトより

松岡――バイオとフードテックに跨る分野では、多くの代替肉メーカーが、製品の製造に3Dプリンターを活用し始めています。
食べたときに、より肉らしく、おいしく感じられるような見た目や食感に仕上げるために、3Dプリンターによって、脂肪や筋などの入った代替肉づくりが行われているのです。
例えば、イスラエルのリディファイン・ミートは、3Dプリンターを使った植物由来のステーキ肉の製造法を開発しています。

リディファイン・ミートは、イスラエル国内でミンチ肉を3Dプリントしたソーセージやバーガーのパティなどを販売。ブロック肉に近いステーキ肉の開発にも取り組む
※画像はRedefine Meat社公式サイトより


――マス・カスタマイゼーションの分野では、例えばドイツのオーディオメーカー「Sennheiser」が、3Dプリンター企業とのコラボによって、カスタムイヤホンのピースの提供をスタートさせることを発表しています。個々にフィットするピースによって、製品の品質や付加価値を向上させる取り組みです。

ユーザーはスマホで自分の耳の画像をスキャンして、データを送信。耳の形にフィットしたイニシアル入りのイヤーピースが作成され、数日でユーザーに届けられるという
※画像はFormlabs社公式サイトより


――ユーザーのニーズが多様化し、大量生産・大量消費の時代に終わりが見え始める中、一人一人に合うものを生み出すことができ、環境負荷の低減にもつながるパーソナライゼーション等への取り組みが注目されています。
その中で、3Dプリンティング技術を活用したカスタム製品、パーソナライズ製品の提供は、今後も求められていくでしょう。

3Dプリンターを活用した環境負荷低減や、サステナビリティへの取り組みにも注目が集まる。例えば、米国のForust社は木材製造や製紙の際の廃材等を利用して、3Dプリンターで木目調の製品や素材を製造



製造プロセスを俯瞰する目線と、従来型の工法とのコラボが必要

——3Dプリンターの普及には、どのような課題があるでしょうか。

松岡――主として、従来の工法との住み分けなどが必要であること、日本の生活者の高い要求品質に応えていくこと、などが挙げられます。

そもそも、日本はものづくりが得意な国であり、ローコストで高品質なものを仕上げる優れた職人や技師がたくさんいて、体制も充実しています。従来の工法と、3Dプリンティング技術によるシナジーをどう生むかが問われていくところです。

また、3Dプリント製品はそれぞれに生産プロセスが異なるため、品質の保証や安全面をどのように担保していくかも重要な点です。業界でも、ガイドラインや基準などの検討が進められています。

——企業がビジネスやものづくりに3Dプリンターを活用しようと考える際、どのような考え方がポイントになってくるでしょうか。

松岡――「従来のプロセスや工法と、3Dプリンターを置き換える」という考え方ではなく、適材適所の使い方と、従来型とのコラボレーションを考えていく必要があります。

例えば、今までは「まずAを作ってから、Bをはめ込む」という方法で作っていたものも、3Dプリンターなら「A+B」を一体成型できる可能性がありますので、ものづくりの全体を見据えた設計やプロセスの見直しや、マネジメントが求められます。目的やメリットを明確化しながら、検討を進める必要があるでしょう。

三森――工法やプロセスを変えるということは、組織の改編のコストなどが生じる場合もあるでしょう。その際の変化や抵抗感への対応なども、企業にとってはネックになるかもしれません。

ただ、3Dプリンターは性能・コストも落ち着いてきて、導入の成功事例も増えていますし、生活者のニーズをとらえるためのロングテールなものづくりへの対応や環境への貢献度などを鑑みると、今後さらに必要とされる技術であることは間違いありません。

短期的なコストのみにとらわれず、自社の将来的なものづくりを全体から見据えることで、対応するモチベーションを上げていただきたいと思います。その中で、3Dプリンティング技術が皆さんのお役に立つことを願っています。

一般社団法人 日本3Dプリンティング産業技術協会
(左上)常務理事・研究員 松岡 司(まつおか・つかさ)さん
(右上)理事 三森幸治(みつもり・こうじ)さん
(左下)理事 辻󠄀 大輔(つじ・だいすけ)さん
(右下)研究員 大庭秀章(おおば・ひであき)さん
身近なものづくりへの導入が進む3Dプリンター。ものづくりの際の利便性や製造品の機能性の向上、エネルギーの効率化など、さまざまな面から私たちの生活を支えてくれるでしょう。
カスタム製品やパーソナライズ製品の製造や、デザイン性の高いクリエーティビティが気軽に実現できるといった点でも、3Dプリンティング技術活用のアイデアが磨かれていきそうです。
Written by: BAE編集部

CONTACT

お問い合わせ

お問い合わせ

お仕事のご相談やその他お問い合わせはこちら

資料ダウンロード

電通プロモーションプラスのソリューション資料一覧はこちら
page_top