2020-01-21

言語や国籍を超えてグローバルに活躍する「バーチャルインフルエンサー」の可能性

若い世代の共感を誘う仕掛けは“ファンとの共創”
「バーチャルインフルエンサー」とは、InstagramなどのSNSを中心に活躍する、CGで作られた架空の人物。動画メディアを中心に展開される「VTuber(バーチャルユーチューバー)」とは異なる文脈で登場し、見た目がリアル寄りであることから、「バーチャルモデル」「バーチャルヒューマン」などとも呼ばれています。
リアルとバーチャルの境目に存在する彼らですが、Instagramを日常的に活用する若い世代を中心に、通常のインフルエンサーと同等かそれ以上の影響力を持つ情報発信源として、存在感を見せています。
活躍の理由やポテンシャルについて、「イケメンすぎるバーチャルモデル」として人気ニュース番組でも取り上げられ、海外メディアからも注目される「Liam・Nikuro(リアム・ニクロ)」をプロデュースする、1SEC(ワンセック)の宮地さんにお話を伺いました。


リアルな人物造形と人柄が若い世代の共感を呼ぶ

——バーチャルインフルエンサーの変遷について、簡単に教えていただけないでしょうか。

2017年の6月頃、Instagram上に世界初のバーチャルインフルエンサーといわれる「リル・ミケーラ」が登場しました。彼女は19歳のブラジル系アメリカ人(という設定)で、プラダやカルバン・クラインを始めとする多くのファッションブランドとコラボを果たしました。先鋭的なファッションを着こなせる優れたセンスと、神秘的な人物像がハイブランドにハマッたのだと思います。その後は1億ドル以上の価値がつき、米国の著名なベンチャーキャピタルから投資を受けて、ミュージシャンとしての活動も行っています。

2017年末頃まで、ミケーラは自分がCGであることを明かさずに活動していましたが、自らカムアウトしたことで沸点が上がり、フォロアーの増加が急加速しました。「リアルじゃなかった!」という驚きがインパクトになったのです。この前後に、国内外でスナップチャットやInstagram上にその他のバーチャルモデル、バーチャル・インフルエンサーが登場しはじめました。

ミケーラのInstagramのフォロワー数は現在約190万人。インスタグラマーとしてだけではなく、アーティストや歌手としても熱狂的なファンを獲得
2018年頃からミケーラ以外にも、国内外に様々なタイプのバーチャルインフルエンサーが誕生。それぞれの個性を発揮して、ブランドとのコラボやPRに活躍している

——それまでもリアル寄りのCGキャラクターは存在しましたが、これほど大きな人気を獲得することはありませんでしたね。

はい。今までのCG技術ではどうしても偽物っぽく、“不気味の谷”を越えられませんでした。しかし、近年のテクノロジーの進化によって「人間らしさを追求しながらも、若干のCGっぽさを残す」というバランスのとれたカッコいいモデルが実現したことが、人気や注目度を高めるきっかけになったようです。

私たちもこの流れに注目し、2018年前半から準備をして、2019年4月に国内初の男性のバーチャルインフルエンサーである、リアム・ニクロをデビューさせました。

クリエーティブの鍵は“フォトリアル”を生み出す技術。身体は実在する複数人のモデルの写真。そこにCGで制作した顔を合成する。映画などにも用いる高度なモデリング技術が必要

リアムの風貌は米国と日本の両方で男女75人ずつくらいにアンケートをとって造形を進めました。ジャスティン・ビーバーやBTS(韓国の男性ヒップホップグループ)のメンバーのビジュアルの好感度が高いという結果を受けて、ジャスティンのような骨格に少しアジアの香りを加えた顔立ちに仕上げています。

——ミケーラやリアムがInstagram上でファンの心をつかみ、人気を獲得していった理由は何でしょうか。

見た目のカッコよさだけではなく、リアルな人物像を追求しているという点が大きいでしょう。活躍できるバーチャル・インフルエンサーを誕生させるには、ファッション、メイク、音楽、その他の今はやっているリア充寄りのカルチャー等、Instagram上でフックとなる要素を確実に分析して、彼らの行動や演出に反映させる必要があります。

リアムは米国人の父と日本人の母の間に生まれたハーフで、身長180㎝、体重70㎏。LAとTOKYOを拠点にファッションモデルとして活動しているという人物像ですが、よりリアルになるよう、来歴や性格、過去、将来のビジョンなどは実在の人物をベースに設定しています。「彼ならこう行動・発言するだろう」という部分をインスパイアしているんです。

——実在の人物に肉付けをする感じでしょうか。

そうです。本当はデジタルな存在だからこそ、中身はリアルじゃないと面白くなりません。インフルエンサーとして活動するには、好みや思想、何をもって悩んでいるかなど、“ファンの共感を呼ぶ人柄”が大事なので、そこをしっかりと設計して、少しずつ表に出すようにしています。

時には、リアムがファンに対して、恋愛に関する悩みをオープンにしたり、髪形に関する意見をコメントで求めたりすることもあります。恋愛相談に対しては、コメントやDMが700件くらい寄せられるなど、面白い反応がありました。なかにはリアムがバーチャルな存在だと気が付いていないファンもいて、「リアルなのか、デジタルなのか、キャラクターなのか」という点については、実はさほど重要視されていないという気もします。

第62回グラミー賞にノミネートされたラッパーのポスト・ マローンとの2ショットを公開するなど、セレブとの交流でも話題。今後 リアムは音楽活動を本格化させて行くという


“ファンとの共創”で愛されるVインフルエンサーに育てる

——リアルだと感じられる中身が重要である理由を、もう少し詳しく教えていただけませんか。

Instagramを活用するZ世代やミレニアル世代などのデジタルネイティブが、嘘に対して非常に敏感だからです。生まれたときから情報を浴びて育ち、高い検索力によって真偽を掘り下げる習慣が身についているせいか、「偽物か本物か/嘘か本当か」を直感的に見分ける能力が高く、反応も繊細で、台本や段取りが透けて見えると覚めてしまいます。
バーチャル・インフルエンサーについても、「嘘っぽい」と思われてしまったら、人気の理由になりません。少なくとも、デジタルネイティブが求める存在にはなりにくいでしょう。

——バーチャルインフルエンサーを活用した情報発信やPRに関しても同じことが言えるでしょうか。

その通りです。デジタルネイティブに対しては、常に「同じ目線」をキープすることが大事です。従来はプッシュ型の広告やPRも有効でしたが、今は商品の顔やメリットを連呼したり、押し付けるタイプは求められません。
例えば、リアムが彼のイメージや好みやヒストリーに合わないアイテムをフィード上で急にプッシュしはじめたとしたら、ファンに敬遠される理由になってしまいます。

1SEC Founder CEO 宮地洋州(みやじ・ひろくに)さん

——バーチャルインフルエンサーを起用する際のポイントや、若い世代を中心としたファンとの関わりについて、もう少し教えてください。そもそも、現実のタレントやモデルではなく、バーチャルインフルエンサーを活用するメリットはどのような点にあるでしょうか。

そうですね。まず、現状のメインでの活躍の場はInstagramですが、その他のSNSや動画でも活動が可能ですし、ホログラムを使えばイベントにも登壇できますので、通常のタレントやモデルと変わらない起用ができると思います。

コロンビア出身のラテン・ポップ・シンガー、J・バルヴィンにインタビューを行うミケーラ。動画でも活躍が可能

よく言われることですが、バーチャルインフルエンサーにはスキャンダルも病気もなく、コンプライアンスと相性がいいという非常に大きなメリットがあります。これは、今後のエンタメ業界や広告業界にとって、ポジティブな要素に成り得ると思います。

to Cのコンテンツとして重要な点は、“ファンとの共創”を基としたポテンシャルです。デジタルネイティブの気持ちに寄り添える存在として、どんどん成長させていけるという点は、バーチャルインフルエンサーだけが持っている大きな可能性の一つです。
先ほど言ったように、トライしてほしい髪形やファッションに関するリクエストを募ったり、考え方を明かして意見を交換することで、ファンと一緒により愛されるパーソナリティを共創できます。

これは、バーチャルインフルエンサー以外のコンテンツ作り・モノ作りにも言えることかもしれません。「大人が生み出したカッコいい完成品」を見せつけるよりも、カスタマーと共創しながら、等身大の存在として成長させる方法のほうが、今の時代には合っていると考えています。

——バーチャルインフルエンサーを情報発信やPRに活用する際に、こういったジャンルには強いという特性などはあるでしょうか。
キャラクターの設定にもよるとは思いますが、多言語での発信が可能で、インバウンドとの相性が良いことなどは大きな強味です。


実際に、リアムにはLAとTOKYOのカルチャーを一度にアップデートできるバーチャル・インフルエンサーとして展開する狙いがあり、Instagramのフィード上で両方の観光スポットやグルメを紹介していますが、これが北米やアジアのファンから好評を得ています。
お寺やお祭りに出かけたり、切符を買ったり居酒屋に行ったり。東京でのリアルな日常を切り取ったリアムのpostはインバウンドや来日を予定している外国人からの人気が高い

「来月東京に遊びに行くけど、どこを観光したたらいいのか」と考える人々が、祭り、神輿(みこし)、ラーメンといったハッシュタグや、海外での報道をきっかけにリアムを見つけて、旬の情報や今の人気を知ることができる観光ガイドとして活用してくれているようです。
インバウンド向けとして、一からメディアを立ち上げるよりも、Instagram内のバーチャルインフルエンサーなどの個を活用してコンテンツ化したほうがアクセスされやすく、バズ化しやすいですね。

——相性の良い業種などはあるでしょうか。

現状はファッション、音楽、ビューティー、電子タバコなど、ストリートっぽい要素を含むジャンルで活躍しているバーチャルインフルエンサーが多いと思いますが、基本的にはどんな展開も可能だと思います。ただ、届けたいコンテンツや商材と、バーチャルインフルエンサーの属性はマッチさせる必要があるでしょうね。


バーチャルヒューマンは人間の能力や可能性を拡張する

——バーチャルインフルエンサーの今後の展望を、どのようにご覧になっていますか。

2019年に新しくプロジェクトを立ち上げて、俳優・クリエーターで、起業家の水嶋ヒロさんをバーチャルヒューマン化した、「Lewis Hiro Newman(ルイス ヒロ ニューマン)」を発表しました。世界初の、著名人のバーチャル化という試みです。

ルイスは2019年10月にInstagram上に誕生した。「ロンドンを拠点にアーティストとして活動する」という、水嶋さん自身がかつて抱いていた夢をかなえることを目標に始動

ルイスは水嶋さんの分身ですが、俳優業だけではなく、ファッション、アート、音楽などのジャンルでグローバルな活躍を予定しています。AIとの融合で新しいクリエーティブを生み出すという目標もあります。

——今後はバーチャルインフルエンサーだけではなく、バーチャルヒューマン化も伸びていくでしょうか。

そうですね。まず亡くなったスターなどを復活させる取り組みは当然増えるでしょう。現在もAIと融合して国民的歌姫をステージで歌わせたり、漫画の神様に新作を描かせたりといった取り組みがあるようです。見た目などは、まだぎこちないというのが正直なところですが、今後はより自然になるでしょうし、AIなどの周辺技術の進化に応じて、価値や能力をどんどん発揮していけると思います。マイケル・ジャクソンがまたステージに立って、新曲を発表してくれたら……、きっと世界中が熱狂しますよね。それに伴って、例えば昔のレコードがまた取引されるなど、モノの価値にも影響を与えるかもしれません。

さらに、フォトリアルの技術が進化して身近なものになれば、一般の人のバーチャル化も進むと思います。現在でも、SNSでアカウントをいくつも持ち、趣味や能力に応じて使い分けたり、VTuberとしての活動を副業的に展開している人が増えていますね。
ロングテールで考えると、バーチャルヒューマンも同じく自己実現・自己表現などへの欲求をかなえる存在として、人の生き方や文化に関わっていけると考えています。

バーチャルインスタグラマーを活用したPRやエンタメや、バーチャルヒューマンによる人間の能力の保存と拡張は今後も拡大していくと思います。私たちとしても、彼らをさらに活躍させることで、例えば、アパレル業界のサステイナビリティや再構築を推進したり、森林火災への募金を促したり、観光資源を掘り起こすサポートをしたりと、より社会的な課題にもコミットしていきたいと考えています。
ファッション、エンタメ、音楽などのカルチャーをユーザーに伝え、バズ化してきたバーチャルインフルエンサー。若い世代に向けた情報発信やPRを中心に、今後も活躍するシーンはさらに増えていくでしょう。多言語で表現できるグローバルなタイプのキャラクターなどは、インバウンド向けの観光情報の紹介やアテンドにも力を発揮しそうです。
また、人間のパーソナリティをバーチャルな姿で表現する方法の一つとしても、バーチャルインフルエンサーやバーチャルヒューマンに注目していく必要がありそうです。
Written by: BAE編集部

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