2023-01-10

メタバース×NFTで拡張するブランド価値─SHIBUYA109の「Web3」戦略

仮想空間でも重視するのは、“SHIBUYA109らしさ”
次世代インターネット「Web3」時代における重要なキーワードとして注目を浴びている三次元仮想空間「メタバース」。2022年8月には、総務省が「Web3時代に向けたメタバース等の利活用に関する研究会」(第1回)を開催しインフラの整備を進めるなど、日本でもメタバース活用は本格的に動き出しています。

昨今、さまざまな業種の企業がメタバースに参入するなか、ファッションビル「SHIBUYA109」は、ゲームメイキングプラットフォーム「The Sandbox(ザ・サンドボックス)」に着目。メタバース進出の狙いを、同施設を運営する株式会社SHIBUYA109エンタテイメント 企画戦略部 部長 山本英一郎さん、同プロデューサー 石川智彦さん、のおふたりに聞きました。


メタバース、NFT領域に見いだした、新たなビジネスチャンス

——SHIBUYA109渋谷店(以下、SHIBUYA109)といえば、渋谷を代表するファッションとカルチャーの発信基地です。今回、メタバース空間(The Sandbox)上にも、バーチャル109「SHIBUYA109 LAND」を開設。その狙い、仮想空間に着目した理由を教えてください。

石川――私たちはこれまで、SHIBUYA109の運営を通じて、さまざまなファッションやエンタテイメントコンテンツを発信してきました。アーティストやアニメ、ゲームなど、多岐にわたるコラボレーションもそのひとつです。そのなかで、メタバースは私たちが蓄積してきたノウハウやネットワークを活かせる場であると考えました。

山本――つまり、メタバース上でもSHIBUYA109を発信することで、新たなビジネスチャンスが生まれると考えたのです。唯一無二のデジタルデータ「NFT」の登場によって、デジタルデータの価値は飛躍的に高まりました。NFTの売買は、著作権者にフィーが入る仕組みになっているため、売ったら終わりではないという点も、これまでの私たちのビジネスとは異なりますし、そこに大きなチャンスがあるのではないかと思っています。

石川――メタバース上でもSHIBUYA109の強み、海外でも認知されている高いブランド力やコンテンツ力を活かし、ファッションにとどまらず、NFTなどの新領域にもビジネスを拡大していく。それがメタバースおよびNFT市場、参入の狙いです。

山本――ちなみに、NFTの世界市場規模は2020年時点で約3.4億ドルといわれており、投資銀行「ジェフリーズ」の発表によれば、2022年に350億ドル以上、2025年に800億ドルを超える見込みです。この急成長を遂げる市場に参入することは、将来を見据えた投資でもあります。今後は、メタバースでも国内外のお客さまとつながり、リアルと連携させることで、新たな体験価値を提供していきたいと考えています。

——新型コロナウイルスの感染拡大によって、インバウンド消費がほぼ消滅するなど、小売業界は大打撃を受けました。メタバース上で、海外のユーザーとつながることは、アフターコロナを見据えた取り組みでもあるのでしょうか。

石川――そうですね。コロナによる渡航制限の影響で、SHIBUYA109も海外からのお客さまが激減しました。渡航制限前は、日本のギャル文化を生み出した聖地を見ておこうといった流れがあり、非常に多くの外国人のお客さまに足を運んでいただいていました。ゆるやかに日常を取り戻し始めているものの、現在も「先が見えない」状況であることに変わりはありません。しかしメタバースという仮想空間上であれば、渡航制限もありませんから、気軽にSHIBUYA109に訪れていただくことが可能です。そこでメタバース上で新たな接点を創出し、再びSHIBUYA109に触れていただける場を作りたいという思いから、ゲームメイキングプラットフォーム「The Sandbox」上に、「SHIBUYA109 LAND」の開設を決めました。

The Sandboxのマップイメージ。ピクセルベースのメタバース空間上に、現在「SHIBUYA109 LAND」の開設準備が進められている

山本――The Sandboxは、LANDというNFTの土地で構成されており、その土地を購入することで、The Sandboxユーザーとコミュニケーションすることが可能です。すでにGUCCIやadidasなど、グローバルブランドもLANDを購入し、メタバース上で新たな展開を始める準備をしています。

石川――プラットフォームとしては、グローバル対応しているのですが、ユーザーは日本の方よりも圧倒的に海外の方が多く、「SHIBUYA109 LAND」もおのずと海外ユーザーのアクセスが多くなるのではないかと予想しています。法整備や税法上の問題が整い、気軽に暗号資産が購入できるようになれば、日本人ユーザーも増えていくのではないかと思いますが、現状は海外ユーザーとのつながりを創出することを軸に考えています。一方で、The Sandboxには、スクウェア・エニックス社など、さまざまな日本企業が出資しています。徐々にですが、日本にも逆輸入のような形で広まるのではないかという期待感も持っています。


ECにはなく、メタバースにはある「体験価値」

——「SHIBUYA109 LAND」について、詳しく教えてください。

石川――「SHIBUYA109 LAND」と聞くと、仮想空間上に、ぽつんとSHIBUYA109があるように想像されるかもしれませんが、私たちは今回、渋谷の街の一部を再現しつつ、そのなかにSHIBUYA109がある世界観を構築しています。ですから、渋谷の駅前から、「SHIBUYA109まで歩いて向かう」という体験もそこには含まれているわけです。

「SHIBUYA109 LAND」では、SHIBUYA109の周辺も再現されており、アバターを操り、街歩きも楽しめるようになっている

山本
――The Sandbox上に私たちは土地(LAND)を保有しています。そのなかであれば、比較的自由にコンテンツが作れます。リアルのように街でイベントをやるために事前に許可が必要、なんてこともないですし、さまざまな形でユーザーとつながる機会を創出できるのではないかと考えています。

石川――たとえば、渋谷の街を回遊しながら楽しめるオリジナルゲーム、スタンプラリーのようなものも提供できると思います。やはりゲームメイキングプラットフォーム「The Sandbox」を選んだ以上、ゲームは上手に活用していきたいと考えています。プログラミング不要で簡単にゲームが作れるようになっているなど、The Sandboxの強みをコミュニケーションにつなげていきたいですね。

山本――法的な確認をしたうえでの実装になりますが、特定のゲームをクリアすると、限定のNFTが入手できる。そのNFTを売ってSAND(仮想通貨)を得る、という楽しみ方もあると思います。すでに海外では、ゲームをしながら仮想通貨を稼げる次世代の遊び方として、「Play to Earn(遊んで稼ぐ)」というムーブメントが生まれています。

——「SHIBUYA109 LAND」発のオリジナルゲームが展開される可能性もあるのですね。

山本――はい。リアルもメタバースも、「そこに訪れる理由」は必要ですよね。かつ長く滞在してもらいたいと考えたときに、魅力的なコンテンツは必須だと考えています。ゲームだけでなく、限定のNFTアイテムの販売やイベントなどの展開を現在は検討しています。

石川――以前に越境ECにもトライしているのですが、メタバースにはまた違った可能性があります。ECは、どこからでも欲しい商品の情報が見られ、購入することが可能です。しかしそこに、体験価値はあまりないですよね。利便性は高いけれど、体験の場ではない。一方でメタバースは、アバターを通じて、ゲームを楽しんだり、イベントを体感したりと、リアルと同じような体験ができる。その強みをどれだけ活用できるかが重要だと考えています。逆に、ECでもできることをやる必要はないと思っています。そこにどのような体験価値があるかということは常に意識したいです。

山本――だからといって、NFTアイテムを売るだけでは面白くないですし、何度も来てもらう理由にはなりません。いかに仮想空間上の渋谷を楽しい場にできるか。ゲーム性は大切ですが、ブランディングも意識しながら、上手にバランスを取っていきたいと考えています。やはりリアルとメタバースは別物。メタバース上でリアルな洋服を販売するよりも、アバター用のアイテムの方がニーズもあるはずです。ファン向けのコミュニティビジネスという観点も意識しながら、さまざまな角度から需要を見極め、トレンドをさまざまなカタチで発信、販売していきたいですね。

石川――NFTが私たちにとって魅力的なのは、デジタルデータだからです。在庫を持つ必要がなく、保管する必要もない。さらに配送もないというのは、これまでの私たちのビジネスとは何もかもが異なりますし、大きなメリットだと感じています。


メタバース上でも、重視すべきは“109らしさ”

——すでに「SHIBUYA109 LAND」では、2022年の4月に、周辺のLANDとオリジナルNFTアイテムをセットにした「プレミアムLAND」100組を限定販売しました。NFTビジネスの手応えを感じることはできましたか。

「プレミアムLAND」でセット販売されたNFTアイテムのイメージ。なお、「SHIBUYA109 LAND」の保有するLANDではなく、周辺のLANDとセットで販売された

石川
――夜の10時に販売開始をしましたが、注文が殺到したことで、決済が上手くできないというトラブルに見舞われてしまうほどでした。メタバース、NFTのポテンシャルの高さを再確認することができました。

山本――当時の換算でいくと、1セットおよそ180万円くらいだったと思います。決して安くはないですが、LANDは現実の土地同様、有限であることやメジャーなIPのLANDに隣接しているなどのさまざまな要素によって価値が変動するため、価値があると感じた多くのユーザーが購入してくださったのだと思います。また、“欲しい”と思うLANDは、いつでも気軽に購入できるものではありません。そのプレミアム感がそのまま、注目度になった部分もあると思います。

石川――今回、LANDとセットでオリジナルのNFTアイテムを販売したのですが、こだわったのは“109らしさ”です。女子高生や犬の銅像など、渋谷を感じさせるオリジナリティを大切にしました。

今後はNFTアイテム「ネオントイ SHIBUYA109」(画像はイメージ)などの販売も予定している ©SHIBUYA109ENTERTAINMENT 

山本
――The Sandboxには、ゾンビドラマ『ウォーキング・デッド』の世界が楽しめるLANDもあるなど、多様な展開が生まれています。109らしさは今後さまざまな企業やコンテンツのLANDが誕生していくことを考えれば、差別化、競争力という観点でも非常に重要な要素だと捉えています。

——バーチャル109「SHIBUYA109 LAND」の誕生によって、SHIBUYA109はどのような進化を遂げるとお考えでしょうか。

石川――リアルとメタバース、両方のSHIBUYA109があることで、ファンの裾野は広がると考えています。SHIBUYA109はファッションビルですが、カルチャーの発信基地でもあります。メタバース上では、より幅広いコンテンツを発信することで、ファンづくりに寄与できる可能性があると思っています。

山本――メタバースをきっかけに、リアルに訪れる。そんな相乗効果を生み出したいですね。たとえば限定のNFTを持っていたら、リアルのイベントに参加できるなど、仮想空間と現実をつなげるような施策も検討していきたいです。

石川――当社ネットワークを活用したアーティストやキャラクターとのコラボイベント、NFTの販売。ほかにもメタバース上の屋外広告などの可能性もあると考えています。リアルでは、絶対に表現ができないようなダイナミックな屋外広告など、自由度の高いメタバースだからこそできる広告表現を追求したいです。広告なのにコンテンツとしてワクワクできるような、広告も含めて“遊び場”になるような場所を目指したいですね。

山本――ビジネスの観点でいえば、NFTアイテムの販売、メタバース上で開催するイベントの入場料、ほかにも「SHIBUYA109 LAND」内の一部を貸し出すといった不動産業のような「場所貸しによるコラボ」のような展開も考えられます。


メタバースでも、若者のワクワク・ドキドキを創造していきたい

——リアルとメタバース、両方で「SHIBUYA109」ブランドを展開することで、さまざまな可能性が誕生、拡張していくのですね。

石川――そうですね。弊社は、若者とデジタルの接点を持っています。そのつながりを活用し、「SHIBUYA109 lab.」というZ世代に特化したマーケティングチームも展開しています。若者のインサイトを深掘りすることで、リアルでもバーチャルでも、若者のワクワク・ドキドキを創造していきたいというのが会社全体の戦略です。そうやって、リアルでもメタバースでも、企業と若者をつなぐソリューションカンパニーを目指していきたいと考えています。
弊社はメタバース事業だけではなく、NFTを含む Web3.0 に可能性を感じていますので、今後は新たなNFTプロジェクトにも挑戦をしていく予定です。

左から、株式会社SHIBUYA109エンタテイメント 企画戦略部 部長 山本英一郎さん、同プロデューサー 石川智彦さん
もはや生活の一部となったスマートフォンのように、仮想空間も私たちの日常の一部になる日が来るかもしれません。その未来では、リアルとメタバースの店舗の役割は異なるのではないでしょうか。重要なのは、いかに両方の世界をつなぎ、顧客とのエンゲージメントを高めるか。その課題と、リテールはもちろん、すべての企業が向き合うことになるのではないでしょうか。

Written by: BAE編集部

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