2021-06-15

「車×OOH」の新たな地平、“車窓メディア”が持つポテンシャル

モビリティデータと連携する屋外広告のフロンティア
UberやLyftなどのライドシェア車両の屋根にデジタル広告を取り付けるサービスが海外で注目を集めるなど、いまグローバルで「車×OOH(屋外広告)」が注目を集めています。日本でも、車の窓に映像を投影する「車窓メディア」というプラットフォームが2021年から本格始動します。事業者の一つである株式会社Lauraの代表取締役 中村将也さんに「車窓メディア」の可能性について伺いました。


モビリティデータと連動する新しい屋外広告の形

——車窓型動画メディアサービスについて、どういったものか簡単に教えていただけますでしょうか。

車窓メディアとは、タクシーなど車両の車窓をサイネージとして活用して映像表現ができるサービスのことです。弊社の「CarWindow」は、自社開発の車窓型ディスプレイ技術と、組み込み型の制御技術により、安全運転に配慮した状態で視認性の高い映像配信が可能です。例えば、タクシーであれば、空車中、つまり後部座席に乗客がいない送迎、回送時には、常に静止画が投影されるようになっていますが、左折時には巻き込み確認ができるように、投影がオフになるなどのコントロールが可能です。


——車で移動するサイネージというのが非常にユニークだと思うのですが、車窓メディアが誕生した背景を教えていただけますか。

「デジタルサイネージ元年」といわれる2007年を契機に、駅前などの屋外広告が一気にデジタルサイネージ化されていきました。そして、ディスプレイ技術自体がコモディティ化するにつれ、近年ではイギリスや中国などを中心に、いかに安く、多くの面を押さえるか、そして媒体面をデジタル化できるかということが屋外広告市場全体にとっての大きなイシューとなっていました。

車窓メディアが、注目されている理由はいくつかあります。まず、空車中のタクシー車両は特性上、人通りの多いエリアを低速で走行し、乗客を捕まえるために駅前にずらっと並んでいます。つまり生活者との接触が多く、歩行者の目線の高さで映像表現ができるため、視認性が高いというメディアとして高いポテンシャルを秘めています。海外ではライドシェアや自動運転の普及とともに「車×OOH(屋外広告)」の分野が急激に伸びていましたが、日本の都市部でも外出するにあたってタクシーを見ない日はないため、可能性があると感じました。

——車窓メディアを使ったプロモーションには、どのような特徴がありますか。

50%以上が空車車両であるといわれるタクシーを活用して、街中を舞台に幅広い生活者にリーチできる点がユニークかと思います。

将来的な特徴として挙げられるのが、時間帯と場所を指定してターゲティングできる点です。例えば、コロナ太りを気にするサラリーマンに向けてパーソナルジムのプロモーションを行う場合は、夕方以降の時間帯に東京・新橋・銀座エリアに空車タクシーを集めるなどのカスタマイズが可能です。特に朝8時、夕方17時以降の通勤時間帯や忘年会シーズンは路上にタクシーの台数も増えるため、情報集約性や景観的な面でも、いわゆる「映える」見せ方ができると考えています。


——確かに、駅前にプールした大量のタクシー車両が同時に車窓サイネージで同じ映像を流したら、壮観な光景となりそうですね。

窓に投影する映像は夜に綺麗に見えるという特徴もあるので、そういった意味でも、夕方以降の時間帯は特に道ゆく人たちの目を引きそうです。

また、従来の屋外サイネージやアドトラックと比べると、1面あたりの単価を格段に抑えられますので、これまで難しかった複数車両を用いて街全体をジャックするという大規模展開も可能になります。また、デジタルサイネージなので、広告の内容を柔軟に差し替えられるというオペレーション面のメリットも当然あります。

——車で移動するメディアということで、モビリティデータとの連携は考えられそうでしょうか。

現在は実装できていませんが、時間と場所によって映像コンテンツを切り替えることで、効果的なプロモーションができると考えられます。例えば、アルコール飲料のプロモーションをするときは、出稿を夜帯のみにしぼったり、小学校の近くを通るときは教育商材に切り替わるなど、動的な連携も将来的には可能かと考えています。また、一般的に屋外広告の効果検証ではインプレッションの実測値を取ることが課題でしたが、車窓メディアでは、タクシーがどの場所をいつ通ったかという情報を計測することができていますので、それらのモビリティデータと人流データを掛け合わせて、ロジカルなインプレッション数を測定することが可能です。

——効果検証というお話では、「CarWindow」のプロモーションビデオで、歩行者データの動画解析ができるという説明がありました。

それも技術的には可能です。動画解析技術を活用することで、通行人数だけでなく、視認回数や視認率など、クリエーティブの判定までできます。

「CarWindow」資料より

——車窓メディアと親和性の高い商材はありますか。

従来の屋外広告で親和性の高い商材は、やはり車窓メディアとも相性が良いです。特に引き合いが多いのは美容(消費財、コスメ、エステ、アパレル)、エンタメ(テレビ、動画配信サービス、映画、ゲーム)、飲食(飲食店舗、アルコール、エナジードリンク)の3分野ですね。これらの分野のブランド広告主は先進的なプロモーション手法に対する感度が高く、新しい表現である車窓メディアにも高い関心を持たれています。


海外で急成長する「車×OOH」分野

——先ほど海外で「車×OOH(屋外広告)」の分野が伸びているというお話がありましたが、海外ではどのような状況になっているのでしょうか。

これまでのキャリアとして新規事業畑で育ってきたので、OOHの事例だけでなく、海外VC(ベンチャーキャピタル)の出資先含めて技術的なトレンドや今後の潮流は抑えるようにしているのですが、海外において「車×OOH」は3つのタイプに分かれます。

1つ目は、Wrapify(ラッピファイ)のように、車自体をラッピングしたり、一部分にステッカーを貼る「ラッピングタイプ」(画像1)です。

「ラッピングタイプ」Wrapify公式サイトより(画像1)

2つ目は、Firefly(ファイアーフライ)、UberOOHなど、車の上部にあんどんのように液晶型デジタルサイネージを搭載する「液晶タイプ」(画像2)です。最近ではこれに派生する形で車両の背面に液晶型デジタルサイネージを取り付けるものも出てきました(画像3)。広告を配信するだけでなく、ブレーキライトやウィンカーなどと連動することで、後続車両への安全運転にも寄与するとされています。

「液晶タイプ(あんどん型デジタルサイネージ)」Firefly公式サイトより(画像2)

「液晶タイプ(ブレーキライト型デジタルサイネージ)」Road Runner Media 公式サイトより(画像3)

3つ目が、車内から側面の窓、後方の窓に向かってプロジェクターで投影する「プロジェクタータイプ」(画像4)です。日本では屋外広告物法や道路運送車両法など厳しい法規制の関係上、車外に映像表示機器を取り付けることができないので、このタイプを採用する形となりました。

「プロジェクタータイプ」 Grabb-it公式サイトより(画像4)

——この中で、一番伸びているのはどのタイプでしょうか。

海外では液晶タイプが最も伸びています。これはライドシェアのドライバーの賃金安が社会課題となる中、それを解決する形で普及した点に加え、ディスプレイ自体がコモディティ化しており、安価に調達できた、という背景がありました。しかし、筐体を外部に取り付けるため、汚れや損傷などハードウェアトラブルが起こりやすいという課題もありました。そういった点では、車の内部から投影する「車窓メディア」は、品質保証や耐久性の観点からサステナブルに運用できる点が大きなメリットかと考えています。


車窓メディアはスマートシティでの情報利便性を高める

——車窓メディアの現在見えている課題はなんでしょうか。

まだまだ日本では新しい取り組みなので、課題は山積みです。例えば、日中でも視認性高く投影できないか、通信のバグ・ラグが起きないか、そして安全運転の妨げにならないか、などなど。その他にも、「六本木ヒルズの前では〇〇、東京駅周辺では□□のプロモーション」といったピンポイントに配信するプログラマティックな機能や新しい技術要素については、まさにこれから挑戦していく形になるかと思います。また「CarWindow」はエンジンを切っている状態ではディスプレイが使えないという課題もあります。一方で、駐車中であってもキッチンカーやキャンピングカーは外部電源が使えるため、これらの車両には車窓メディアは相性がいいと考えています。

——ショップ・モビリティはいま伸びている分野ですし、可能性は高そうですね。キッチンカーやキャンピングカーのほかに、車窓メディアと相性のいい車両はありますでしょうか。

法人向けのリース車両ですね。例えば、製薬会社にリースしている車両だったら、車窓メディアで製薬会社が自社のプロモーションを行えるようにするなど。また、ヤマト運輸や佐川急便で使われる小型貨物車両も可能性があると思います。このように車の種類はタクシーに限りませんので、それぞれの車両の特性に合わせて広告を出し分けていくということも将来的には検討したいです。

——車窓メディアの将来的な展開を、最後に教えていただけますか。

広告を表示するだけにとどまらず、さまざまな可能性を探っていきたいと思っています。例えば、車窓にQRコードを表示して、読み取るとクーポンを受け取れるようにするといったOMO的な活用であったり、ニュースや天気といった生活者に必要な情報を流すようにしたり。いま話題になっている「スマートシティ」構想においても、町と生活者の情報利便性をいかに高めていくか、どのように生活者と密接なタッチポイントを作っていくのか、という点には課題があります。自動車は外に出たら必ず目にするものですので、公共サービスのアナウンスや災害情報など、生活をする上で必要不可欠な情報の出し先としても十分機能すると考えています。(※QRコードは(株)デンソーの登録商標です。)

私たちは、「目の前の世界を再創造する」というミッションを掲げていて、関連するすべての方とともに未来の東京らしい街並みをデザインするという使命を背負っています。ゆくゆくは車窓メディアが街と生活者をつなぐハブの1つとなるように、次世代に残る事業となるよう活動していきます。

株式会社Laura 代表取締役 中村将也さん
コモディティ化の進んだデジタルサイネージの世界で、新たな可能性として注目される「車×OOH」。特に車の側面に映像を投影する「車窓メディア」は、タクシーなど必然的に人通りの多い場所を走行する車両と組み合わせることで、大きな効果を発揮しそうです。移動するという特性を活かし、場所と時間を指定して柔軟にターゲティングできるのも、従来の屋外広告にはない強みといえるでしょう。
また、近年注目される「スマートシティ」構想において、モビリティデータ活用は一つの要となっていることから、車窓メディアとスマートシティの親和性は高く、プロモーションという枠を大きく超えて、今後の生活者の暮らしの中で、重要な役割を果たす可能性を秘めているともいえそうです。

Written by: BAE編集部

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